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社説:かんぽの宿譲渡 与党の民営化姿勢問われる

 鳩山邦夫総務相が日本郵政の「かんぽの宿」などの譲渡に異議を唱えている。

 民営化前に日本郵政公社が保有していたかんぽの宿などは、日本郵政会社法の付則で12年9月末までに、譲渡または廃止することが規定されている。

 日本郵政はこれに基づき、年間約40億円の経常赤字を出している全国70カ所のかんぽの宿などを一括事業譲渡することにし、昨年4月から手続きを進めてきた。昨年12月、オリックスグループのオリックス不動産に109億円で譲渡する契約を結んだ。

 鳩山総務相は、90年代から政府の規制改革の政策決定に深くかかわってきた宮内義彦氏が会長のオリックスグループの企業に一括譲渡することに「倫理や道徳、哲学の問題」として疑問を呈した。なぜこの時期なのか、譲渡価格の適正性にも言及している。

 14日には日本郵政の西川善文社長を呼び、17日には大分県日田市の施設を視察した。「いまのところは納得する可能性は限りなくゼロに近い」と、譲渡の前提となるかんぽの宿などの会社分割認可には否定的だ。

 では、日本郵政の手続きには問題があるのか。

 一括譲渡方式は昨年4月、総務省が了承し、手続きに入った。施設ごとの売却も考えられたが、すべての施設を譲渡できる保証はない。07年には廃止や譲渡に際しては雇用に十分配慮することが参院で決議されている。約3200人の職員を引き受けることが譲渡の条件とされ、それにかなう計画を提出した候補のひとつがオリックス不動産だった。

 経営状況が厳しい日本郵政グループにとって、赤字部門の放置は望ましくない。そこで、早期譲渡を決断した。最後の2社の中でオリックス不動産が価格面で勝っていたという。

 こうみると、行政手続きや法律面で問題は見当たらない。規制改革にかかわった経営者のグループ企業は望ましくないという鳩山総務相の主張は「李下(りか)に冠を正さず」という道徳論に頼るしかない。

 小泉改革当時、規制改革にかかわった経営者の企業が、その成果を享受したと受け取られてもやむを得ない例は見受けられた。当時は、そうしたことへの批判は盛り上がらなかった。

 麻生内閣に代わり、郵政民営化の見直しも議論されている。今回の問題もそうした流れの中で起こった。

 かんぽの宿譲渡のような問題は今後も起こりうる。そうしたことを避けるためにも、日本郵政は民間会社とはいえ売却などの際の手続きを国民に広く示し、そのプロセスもできる限り公表することが望ましい。

 また、郵政民営化を推進した自民、公明両党は民営化企業の資産売却に関する基本的考え方を示す必要がある。入札参加要件も明確にしなければならない。

毎日新聞 2009年1月20日 東京朝刊

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