現在位置:
  1. asahi.com
  2. 社説

社説

アサヒ・コム プレミアムなら過去の朝日新聞社説が最大3か月分ご覧になれます。(詳しくはこちら)

対テロ戦争―どこが間違いだったか

 「対テロ戦争(WAR ON TERROR)は間違いだった」

 英国のミリバンド外相の発言である。先週、インド・ムンバイでの演説やBBC、英紙でそう明言した。

 8年前の9・11同時テロ以来、英国はブッシュ政権に寄り添い、アフガニスタンやイラクで軍事行動を共にしてきた。その外相が率直に語り始めた。

 「あらゆる手段でテロを根絶しなければならない。問題は、いかにそれを成し遂げるかだ」。そうした立場から外相は「対テロ戦争」という言葉や考え方に三つの過ちをあげる。

 まず、さまざまなテロ集団を十把一絡げに敵と見立ててしまったことだ。テロとひとくちに言っても、背景や歴史はそれぞれ違う。結果として、異なるテロ集団なのに連携させ、敵を増やしてしまった。

 軍事力は有用だとしても、それを過信した過ちもある。戦火と犠牲者の拡大が住民たちの反発を招き、治安を悪化させ、テロを拡散させ、かえって当初の目的を果たすのを困難にした。

 制圧を急ごうとするあまり、国際法がなおざりにされ、人権侵害を誘発した。キューバにある米国のグアンタナモ収容所での人権侵害は典型だ。

 それぞれもっともな指摘だ。

 9・11事件は大きな衝撃を米国民に与え、ブッシュ大統領は「これは戦争だ」と言明した。その思いは理解できなくはない。だが、その結果もたらされたのは、今なお続く二つの戦争と、イスラム世界に広がる反米感情だ。

 欧州の国々は、長い歴史のなかでさまざまなテロを経験してきた。旧植民地にまつわる紛争もあった。それだけに、マドリードの鉄道やロンドンの地下鉄を狙ったテロ事件でも、国際的な捜査協力で犯人を追い詰めるなど、米国とは違う対応をしてきた。

 英国も2年前のブレア首相からブラウン首相への移行を機に、米国流の対テロ戦争とは距離を置き始めていた。米国の政権交代をとらえ、この転換を明確にしたということなのだろう。

 昨年11月、大規模なテロに見舞われたムンバイという地でインドとパキスタンの融和と協力を語ったのも、軍事力だけでテロを根絶できると思いがちな対テロ戦争の愚かさを際立たせたかったからに違いない。イラクなどで英国自らが払ってきた犠牲への反省もこもっていよう。

 オバマ新政権も、ブッシュ時代の対テロ戦略とは明確に一線を画そうとしている。国務長官に指名されたクリントン氏は今後は仲間を増やし、敵を減らす国際協調路線を目指すと語った。

 テロは根絶したい。だが「敵か、味方か」といった単純な処方箋(せん)ではとてもこの難題を解くことはできない。この事実に正面から向き合おうという新しい風である。

インフルエンザ―流行本番へ備え急ごう

 高齢者が多く入院している東京都町田市の医療施設で、職員も含めて100人以上がインフルエンザに感染し、3人が亡くなった。

 最近では珍しい大規模な集団感染だ。なぜこんなに広がったのか、防ぐことはできなかったのか。徹底的に原因を調べて、今後の対策に生かす必要がある。

 今冬は、インフルエンザの流行が例年より早く始まった。今月末から来月初めにかけてピークを迎えるという。流行の本番を前に、改めて備えを固めておきたい。

 インフルエンザは、まず感染しないように予防すること、なかでもワクチンを打つことが大切だ。この病院でも、患者や職員の約9割がインフルエンザワクチンを打っていたという。

 だが、ワクチンは流行する型を事前に予測して作るため、年によって効きにくい場合がある。また高齢者では免疫ができにくい。今回の例では、若い職員でさえ20人以上も感染するほどだから、高齢者にはよりワクチンの効果が薄かったようだ。

 免疫がないまま閉鎖的な空間で集団で暮らしていれば、次々に感染が広がっても不思議はない。それを食い止めるにはどうすればよいのか。

 タミフルなどの抗ウイルス薬を飲めば、感染を予防できる可能性がある。今回の病院でも、早い段階で感染していない人に投与しておけば、広がりを抑えられたかもしれない。

 ウイルス株の分析を素早く行うことも重要だ。今回、地元の保健所は病院から最初の報告を受けても数日間は立ち入り検査をせず、分析も遅れた。

 日本のインフルエンザ対策は、全般的に欧米諸国に比べて不十分だと専門家は指摘する。厚生労働省も対策を再点検する必要がある。

 例えば、タミフルの予防投与は厚労省の対策の手引にはない。

 またインフルエンザにかかった場合、高齢者でこわいのは肺炎になることだ。その予防のために欧米諸国では肺炎球菌ワクチンの接種を進めているが、日本の厚労省はまだ十分認知しておらず、高齢者のほとんどは免疫を持っていない。

 人には全く免疫のない新型インフルエンザの出現が心配され、対策も検討されている。だがそれ以上に大切なのは、毎年流行する普通のインフルエンザに対する備えだ。それができなくては新型どころではない。

 インフルエンザは風邪とは全く別のこわい病気だ。全身に重い症状が出て、子どもや高齢者では命にかかわることもある。過去に大流行したインフルエンザを「スペイン風邪」などと呼んでいることが、日本で誤解を招く原因になっているかもしれない。まず認識から改める必要がある。

PR情報