古手の中小企業経営者はリーマンショック以来の「経済環境の激変」に驚いていない。デジャブ(既視感)である。彼らは言う。「ニクソンショックから始まって、その後のオイルショックと景気の冷え込みは大変だった」と。
経済史をひもとくと、固定相場が終わり急速な円高、そして狂乱物価の後の74年後半から総需要抑制などにより、景気は急速に冷え込んだ。
そして、彼らは言う。「あの時も突然仕事がなくなって、機械を磨いたり、庭の草むしりなどもしたけれど、プラスになったのは空いた時間での勉強会や研究開発だった」と。
高度成長に慣れた日本の企業にとって、安定成長へ移行する狭間(はざま)であったこの時期の変化の大きさはいま以上だったに違いない。しかし、その経験が企業の「体質改善」につながり、その後の日本の基礎を固めた。
大切なことは事態に立ち向かう優先順位を考えることである。限られた経営資源をどのように生かすかだ。普段できないことをこの際やってみることだ。
大企業の経営者には、中小企業のように、40年もの経営の経験(暗黙知)がある人物はいないだろうが、そのかわり形式知はあるはずだ。賃金が上がらなかったことによる、庶民にとっての「実感のない景気回復」により、企業の体力は格段に高まっている。積み上げてきた内部留保は、まさに今日のためのものである。いまこそ明日のために金(かね)を使うべきだ。
「百年に一度」という形容が飛び交うが、この百年に市場経済も学習を重ねてきた。欧米諸国の幅と厚みのある政策対応の早さも学習の結果である。外国をうらやむのも寂しいのだが。(遠雷)