2009-01-16
■悪いのは誰? - ある無人島漂流の物語
今回のオフ巡りで聞いた話を早速。ある方が今年の4月からお勤めをはじめる。で、その研修のときにグループディスカッションがあり、こんな話が出たそうだ。
ある夫婦、その妻に思いを寄せる男性、この3人とは何の関係もない男性、おじいさん。この5人が乗っていた船が難破し、無人島に流された。
その過程で、夫婦の夫は行方不明となり、島に流れ着いたのは4人だった。この時点で夫の安否はわからない。
夫の安否を確かめるには、船を出して捜索するしかないが、妻には船をつくる能力や、直す力はない。船をつくり、直すことができるのは、夫婦とは縁もゆかりもない男性ただひとりだった。
妻はその男性に頼んだ。「船を直してください。夫を探したいのです」と。
男性は直すと言った。だが、条件をつけた。その条件とは妻と一夜限りの関係を持つこと。
妻は悩み、おじいさんに相談した。おじいさんは「気持ちのままに行動しなさい」と。
妻は結局、その男性と関係を持った。男性は約束を守り、船を直した。
そして船が直り、これからまさに夫を探すというときに、夫が無人島に自力でたどり着いた。
妻は夫に、捜索するため、船を直すために男性と関係を持ってしまったことを告白した。
夫はそんな妻を許さなかった。不貞であると。
夫婦は破局した。
ひとりになった妻の様子を見て、思いを寄せていた男が言った。「あなたが好きです」。
ここで整理。登場人物はこの5人。
- 夫
- 妻
- 妻に思いを寄せていた男
- 船を直した男
- おじいさん
この5人の中で、最も悪いと思う人は誰ですか? 許せない順番をつけるとしたら? はい、みんなで考えてみましょうね。シンキングターイム!
…。
……。
………。
…………。
……………。
………………。
…………………。
……………………、はい、どうですか? 決まりました?
ちなみに、そのグループディスカッションでは、女性陣は関係を迫った男が許せないと。関係を持つことを条件に、船を直すだなんてヒドイ! となったそうで、それに対して男性陣が「約束を守ったんだから、いいじゃないか」「妻も同意の上だろ」ということで、その男性陣は悪くないということで、数の力をもって押し切られたようです。女性の感情論を、ムリヤリ数の力と、論理で押し切ったようですな。
で、ちなみに俺はどう考えるかと言うと、まったく違いましたね。真っ先に思ったのはこうです。
断然、おじいさんが悪い!
じじいが悪いです(キッパリ)。理由はこう。
最も無責任だから
自分が思うに、この話の中では全員が何らかのリスクを負っているのです。
夫 - そもそも生きるか死ぬかの瀬戸際だった
このシチュエーションで夫を責めるのは酷というものです。妻に会いたい一心で、命からがらたどりついた。そこで妻の不貞を知った時の絶望感。そこで妻を拒んでもいたし方ありません。生死がかかっていたわけですからね。最大のリスクを負っていた。彼を責めるのはかわいそう。
妻 - 正しい答えなんてない
この話では結果的に不貞を責められることになりますが、では関係を持たずに、船の修理をせず、ただ座して待って、夫が死んだとなってとき、「助けにも行かなかった」という問題が発生します。「それで操を守った」という価値観もあるでしょうが、その操のために死に追いやったという自分を責める材料にもなりうる。
関係を持たずに待ち、たまたま夫が生きて帰って来たとしても、「何故、助けに来なかった」となじられる可能性もある。つまり確実に正しい答えなどない、最も難しい立場だったのが妻。彼女を責めるのも酷ですな。
妻に思いを寄せていた男 - 好きならしょうがないでしょう
この男の場合、最後の最後に登場したわけですが、最後に出たからもっとも害が少ないとも言えます。ある意味、最も道徳的かも知れませんな。夫婦であるうちは手出しをせず、ちょっかいも出さず、契約関係も持ち出さず。
もちろんタイミング的に盗人みたいな行為であることは否めませんが、しかしそれで妻が助かることもあるはず。盗人のそしりを受けるリスクを承知で攻めに行ったわけで、一番害が少ないのではないでしょうかね。益も少ないですけど。
船を直した男 - 感情論としては許せないけどね
さて、一番問題が多そうな彼ですが、感情論としては許せません。太い男ですし、ひどいヤツです。自分しか船を直せないという強みを利用しているわけですから、なかなかの悪党ですな。
しかし、かと言って一番悪いかと言うとそうでもない。それは約束を守っているから。きちんと船を直しているから。そして条件以上の要求をしていない。契約を完了させているのです。
確かに関係を持ったことで、夫婦の関係は壊れた。しかしそれはこの男の問題ではなく、妻がそれを夫に話してしまったからとも言える。黙っていれば万々歳だったかも知れない。夫婦も、この男性も、みんなうまくいった。こういう結論さえありえた。
なので、感情としては許されないが、本当に悪いとなるといささか疑問なのですね。
おじいさん - 役目を何ひとつ果たしてない
で、俺が問題視するのはおじいさん。この人、何も役目を果たしていない。
妻がおじいさんに相談したのは何故か。基本的には背中を押して欲しかったのだと思うわけですよ。関係を持つにしても持たないにしても、答えが正しいかどうかわからない。不貞をとるか、見殺しをとるか。そういう究極の選択。それに答えが欲しくて相談した。知恵を借りようとした。
そこに「気持ちのままに行動しなさい」では何の答えにもなっとらんのです。「思ったようにしなさい」じゃ聞いた意味がない。気持ちのままに行動すること、思ったように行動することがつらくて相談したのに。そこに人の助言を受けることで、妻としては自分の気持ちに整理をつけたり、あるいは誰かのせいにしたいという部分もあったはず。自分で決めるには重過ぎる。誰かに背負って欲しい。そういう心理状態が透けてみえるのですよ。
なので、このおじいさんは、通りいっぺんの答えをしながら、何の解決方法も示せず、ただ妻を突き放した。それだけなのです。で、それが最も罪深い。何のリスクも負わず、知らん顔。そういう状態だと思うので、俺としては最もひどいと。そう思うわけです。自分が無責任な傍観者であることを嫌うという理由も大きいけどさ。
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