福岡市は16日、利用客が低迷する市営地下鉄七隈線(中央区天神南‐西区橋本)に関し、七隈線が発着する「天神南駅」から、大型商業施設「キャナルシティ博多」を経由してJR博多駅に至る新たな延伸ルート案について、本格的な検討に入ったことを明らかにした。事業費を約450億円と初めて試算。従来の延伸2ルート案に比べて、建設費が大幅に抑えられることに加え、2011年春に全線開通を控えた九州新幹線鹿児島ルートの博多駅接続で七隈線の利用客増が見込まれることから、最有力とみている。近く市議会に報告し、採用について慎重に協議する方針。
●天神南と博多直結 事業費450億円
05年2月に開業した七隈線の「天神南‐橋本」間は、区間12キロの部分開業の状態。従来検討されてきた、渡辺通1丁目から分岐して博多駅に至る「博多駅ルート」(2.5キロ)と、天神南駅から博多ふ頭のウオーターフロント地区に至る「WFルート」(2.3キロ)の延伸2案は、採算性などを中心に検討作業が市議会で続いている。
新たな延伸案は、天神南駅から博多部を通り、博多駅に乗り入れる約1.4キロ。約50万人が暮らす市南西部を、地下鉄で天神、博多駅と結ぶことで、新規区間の利用者は日間約6万8000人が見込まれるという。
市は昨年1月、従来2案について、事業費を計約1600億円と試算。厳しい財政状況から、事業化に否定的な見方を示していた。新案の事業費450億円は、距離が短いうえ、地上部の土地購入費がいらないことなどから、低めに抑えられるとしている。
同市内部では、以前にも今回の新延伸案が浮上したが、従来案の検証作業を優先し、本格検討に至っていなかった。同市は、新案を(1)従来案より事業費が安い(2)沿線住民の要望が高い(3)JRとのネットワーク構築が可能‐と評価。着工や開業の時期は未定という。
総事業費約2800億円の七隈線をめぐっては、乗客数が日間約6万2000人で目標の約11万6000人の半分程度。市営地下鉄空港線や箱崎線に比べ厳しい状況にある。
●現実路線で低迷打破狙う
【解説】福岡市営地下鉄七隈線の新ルート案は、同線開業直後から市が内部で温めていた“切り札”で、利用が伸び悩む七隈線の乗客増に向けた現実的な延伸案といえる。ただ、厳しい財政状況の下での大型工事の是非や市民感情、議会判断など事業化への道のりは不透明だ。
同市交通局が今後、返済する地下鉄全体の借金総額は約3300億円。ほかの地下鉄路線と連結がない七隈線は毎年度、60億円超の赤字を出す不採算路線で、地下鉄事業の“お荷物”とも言える存在になっている。
既存のウオーターフロント(WF)延伸案は、好景気だったバブル期に港湾地区発展を見据えた案で、市内部で「これでは営業不振を脱却できない」との見方が支配的。JR博多駅、キャナルシティ博多、天神の接続は「市民や地元商店街、観光客から要望が強い」(市幹部)ことも、新ルートの本格検討を始めた背景にある。
「今の七隈線はあくまでも部分開業」。それが市側の持論だが、昨今の景気低迷の中、延伸が不振打開の切り札に本当になるのか‐。採算性はもちろん、交通体系や街づくりの未来像といった視点からも、市民を巻き込んで論議の必要がある。 (地域報道センター・井崎圭)
=2009/01/16付 西日本新聞夕刊=