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箪笥の中の着物を生き返らせる

 連載を始めてしばらく経った頃、友人・知人たちがまず言ったのは、「そういえば、うちにも着物があった!」ということでした。家を継がれた方や地方在住の50-60代の方は、ほとんど皆さんがお持ちかもしれません。

 編集部の神崎公一さんも、やはりお父様の着物を譲り受けていらっしゃいます。お父様もお召しになるので、“1セットだけもらったけれど、着物の種類もわからない”とのことでした。

 そこで、悉皆(しっかい)部門をもつ「銀座もとじ」店主・泉二弘明(もとじ・こうめい)さんに、神崎さんの着物を生き返らせる方法をうかがうことにしました。銀座もとじ「男のきもの」店は着物好きの男性なら必ず知っているという名店。泉二さんは、男性に着物を着てもらおうという“着物伝道師”として、テレビや雑誌でも活躍中です。

 

父の着物を息子が着る意味

 まず、神崎さんはワイシャツの上からお父様の着物を着てみました。

泉二
裄も丈(※)も少し短いですが、このままで大丈夫です。
神崎
この着物は、なんという種類ですか?
泉二
素材はウールです。長襦袢は、セルといって、これも薄手のウールです。
神崎
どんなときに着られるんでしょうか?
泉二
家庭でくつろぐときに、お召しになってください。近くのお店にちょっと買い物というときも、もちろん、そのままで結構です。
神崎
新年会に着ていって、友人たちを驚かせようと思っていたけれど、外出着ではないのですね。物を知らなくて、お恥ずかしい(笑)。
泉二
着物は値段が全てじゃないんです。お父様の着物を息子さんが受け継いで着るのは、すごく親孝行なことです。エコロジーにもなりますし。この着物をまず家でお召しになって、着慣れた頃に新しい着物を新調していただければ、私どもとしても大変有難いです(笑)。

※裄と丈(ゆき と たけ)
「裄」とは、着物の背縫い(後ろの中央にある縫い目)から肩先を経て袖口までの長さ。 「丈」とは、着物の肩から裾までの長さ。

※くつろぎ着の着方については、「男の着物映画 【彼岸花】」を参照してください。

 

男の着物、ここが気になる、これを聞きたい

 着物を脱いで、一段落すると、二人の語らいが始まりました。

泉二
男の着物は自己表現の最大の武器になります。若さを保つし、威厳も出ます。
神崎
確かに、そんな感じがします。ところで、男の着物って、最近はどうなんでしょう?
泉二
すごい勢いで増えていますね。
神崎
どんな方たちが着物を着ますか?
泉二
茶道や仕舞など、和のお稽古事をされている方はもちろんですが、ファッションデザイナーや芸術関係の若い方も、非常に興味をもって着てくれます。定年退職されたあと、今までと全く違った生活をしたいとおっしゃって、着物をお求めになる方も多いですね。
神崎
家の中で着ている分にはいいんですが、外出するときは、お作法にのっとっていないと恥ずかしいんじゃないかと思うと、初詣に出かける時に着たりするのも、おっくうになってしまうんですが。
泉二
普段なら、何を着てもいいんです。といっても、買い物に、黒紋付で行く人はいないでしょう?(笑) 洋服も、結婚式以外はジーンズで通す人もいるように、着物もそれと全く同じです。(参考
神崎
着物も、「習うより慣れろ」だとよく聞きますが……。
泉二
そうですね。たとえば、ネクタイも、新入社員の頃は鏡の前でしか締められなかったのが、何か月かすると、さっとうまく結べるようになるでしょう。帯を締めるのも、ネクタイと同じで、全く難しいものではないんです。
神崎
なるほど……。今日は、すごく勉強になりました。

 せっかく名店に伺ったのですから、「銀座もとじ」の着物も見せていだだきました。 それは、また別の回に。

まとめと追記

 箪笥の中の着物は、少し寸法が合わなくても、家庭着として着るのが正解です。

 でも、その着物が、経済産業大臣指定の伝統的工芸品である「本場結城紬」や「本場大島紬」といった高価な着物(新しいもので30万円ぐらいから、なかには100万円を超えるものもあります)で、よそゆき着として着たいときは、「仕立て直し」という方法があります。着物を解いて、洗い張りをして、仕立て直すと、着物は見違えるように新しくなります。その場合のお値段は、着物の状態やお店にもよりますが、5万円〜7万円といったところです。(羽織の仕立て直し代も、ほぼ同額。)期間は2ヵ月ほどかかります。

 また、「寸法出し」といって、裄や着丈の寸法だけを直す方法もあります。ただし、小さい着物を大きくするのは限りがあって、裄は2センチ程度、丈は8センチ程度が限界と考えたほうがよいでしょう。この場合のお値段は、裄の寸法直しが7千円〜1万円程度、着丈の直しが1万5000円〜2万5000円程度です。

 

森 恵子(もり・けいこ)

和文化と文学を得意ジャンルとする編集者・ライター。幼い頃から日本舞踊に親しみ、着物歴は長い。着物雑誌やムックの編集執筆、著者インタビューなどを多く手がける。着物関係の著書に『シネマきもの手帖』がある。

2009年01月14日  読売新聞)

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