男のきもの映画 名優の着こなしを盗もう
「学ぶは、まねるから」との言い伝えがあります。いろいろな着物や、名優の着こなしが見られる映画の中から、男の着物を堪能できる3作品を選びました。着物のTPOがわかるだけでなく、男の着物姿を見る機会が少なくなった今、着こなしのためのよいお手本になると思います。
ぼんち
――雷蔵の着こなしで、男の着物の全てが見られる――
DVD発売中 発売:角川映画 販売:角川エンタテインメント 価格:4935円
原作は山崎豊子で、大阪船場の老舗足袋問屋の跡取り息子・喜久治(市川雷蔵)の半生を描いています。時代設定は昭和初期から戦後までですから、実にさまざまな着物が雷蔵の着こなしで見られます。さらに、足袋の留め金(「こはぜ」と言います)に純金を使ったりするなど、足袋が重要な小道具になっているのも、この映画の見どころです。
冒頭には、年長の奥女中が若い喜久治に着物を着せるシーンがあって、褌、肌襦袢、長襦袢、着物の順で着せていくので、男の着物の着方がよくわかります。このDVDジャケットの喜久治の着物は、縞の御召(※)で、帯は博多織の角帯。御召や紬といったカジュアルな着物や黒紋付羽織袴の礼装のほか、今は希少になった夏の着物や冬の着物用コートも見られます。
※御召(おめし)
11代将軍徳川家斉が好んで「お召し」になった着物地なので、「御召」と呼ばれるようになりました。羽二重や紬同様、素材は絹です。無地の御召は茶席やパーティなどの略礼装の着物として、縞の御召は、しゃれ着に用いられます。
鬼平犯科帳 劇場版
――吉右衛門が着る、贅沢な無地の着物の光沢と微妙な色??
DVD発売中 発売・販売元:松竹(株)映像商品部 税込価格:3,990円
中村吉右衛門演じる火付盗賊改方長官・長谷川平蔵は、時代劇ヒーローの中で最も「現代男性の参考になる着物」を着こなす人物といえるでしょう。140話70本のDVDが発売されていますが、この劇場版では、平蔵は微妙な色合いの無地の着物ばかりを何枚も着替えているのが特徴です。
DVDジャケットの平蔵の羽織と着物は、グレーの濃淡の紬。原作者池波正太郎が自ら描いた「長谷川平蔵市中見廻之図」(右の画像)を写したような薄い藍色の着流し姿も見られます。いずれも上質な紬や羽二重であることが、渋い光沢や微妙な色合いからよくわかります。お馴染みの軍鶏鍋屋「五鉄」で密偵たちと語らうシーンでは、平蔵の上等な着物と彼らの質素な着物の違いに注目してください。
彼岸花
――ガウンのように着る、頑固親父・佐分利信のくつろぎ着――
DVD発売中 発売・販売元:松竹(株)映像商品部 税込価格:3,990円
小津安二郎が、大映から山本富士子を招いて撮ったカラー第一作で、昭和30年代前半の中流家庭が舞台です。当時の男性たちがそうであったように、佐分利信が演じる商社の重役は、帰宅すると、まず着物に着替えます。着物を着るといっても、洋服用の丸首シャツの上に着物だけを着て、半襦袢や長襦袢は身に着けません。着物の衿もとは適当にはだけていて、下着の丸首シャツが見えています。帯は兵児帯(※)です。くつろぎ着としての男の着物は、洋服でいえば、ガウンを羽織るような感じということがよくわかります。娘(有馬稲子)が勝手に結婚相手を決めてしまったことに腹をたてる場面では、グレーの紬の下に浴衣を合わせていますが、半襦袢や長襦袢は着ていません。
山本富士子、田中絹代、浪花千栄子など、女優陣のしゃれ着や普段の着物、小津映画独特の無地の紬帯も素敵です。
※兵児帯(へこおび)
西郷隆盛の銅像でお馴染みの帯、薩摩の兵児(若い男性)が締めていたので、この名がつきました。三尺ほどの長さの布なので、「三尺帯(さんじゃくおび)」ともいいます。
和文化と文学を得意ジャンルとする編集者・ライター。幼い頃から日本舞踊に親しみ、着物歴は長い。着物雑誌やムックの編集執筆、著者インタビューなどを多く手がける。着物関係の著書に『シネマきもの手帖』がある。