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「ケルトの虎」の成れの果て 深刻な不況と財政赤字に苦しむアイルランド


(2009年1月16日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

失業率の上昇、住宅価格の下落、国家財政の悪化が急速に進む中、かつて「ケルトの虎」と呼ばれたアイルランドは厳しい緊縮財政の時代を迎えようとしている。

アイルランドは新年の二日酔いから容赦なく揺り起こされた。まず、高級陶磁器・クリスタル製品メーカーのウォーターフォード・ウェッジウッドが破産管財人の管理下に置かれた。続いて、アイルランドにとって最大級の外資企業である米デルが同国リメリックにあるパソコン工場を閉鎖し、ポーランドに移転すると発表したのである。

 それでなくとも失業率の上昇と銀行危機、膨れ上がる財政赤字に苦しめられていたアイルランド経済にとって、これはダブルパンチとなった。過去10年以上にわたり、他の欧州連合(EU)加盟国を上回る成長を遂げてきたアイルランドだが、今多くの評論家は、かつての「ケルトの虎」が今後長らく欧州の劣等生に甘んじる時代がやって来ると考えている。

アイスランドアイルランドの違いは?

 「アイスランドアイルランドの違いは何か? 答えは、たった1文字とおよそ6カ月間の月日だ」。アイルランドの金融界では今、こんな苦々しいジョークが飛び交っている。

 ブライアン・カウエン首相と同氏率いる連立政権が直面している危機は、1980年代の危機との類似が指摘されている。経済改革が後の発展の土台を築く前に、国の債務が4倍に膨れ上がった時期である。

 「今のアイルランドは、病状の診断は済んだものの行動に移る政治的な意思がなかった1982年か、政治家がようやく問題に取り組み始めた1987年と同じ段階にいる」。ダブリンの大手シンクタンク「経済社会研究所(ESRI)」のチーフエコノミスト、アラン・バレット氏はこう語る。

 アイルランドの政治家や政策立案者にとって、1980年代の記憶――この10年間はほぼ5人に1人が失業者で、人口の10%が国外に移住し、最高税率が70%に達していた――は大きく鳴り響く。経済政策に関する政府諮問機関FORFASのトップ、ドン・ソーンヒル氏は「景気下降は不可避ではないが、国の経済情勢は深刻で、困難な状態にある」と言う。

 一時は欧州で最も貧しく、最たる僻地だったアイルランド経済は急成長を遂げ、2006年までに国民1人当たりの所得はEU加盟国全27カ国のうち、ルクセンブルクを除くすべての国よりも多くなっていた。

急成長を遂げた1990年代と、ブームに踊った代償

 EUからの予算補助金と低い法人税率、さらに人口構成による労働力人口の急増に支えられ、アイルランドは米国の対外投資が向かう欧州の主要拠点となった。一時は、EUで創出される雇用の2割がアイルランドだとまで言われた。

 1990年代のアイルランドの経済発展の大きなテーマは、輸出の成長と、国民1人当たりのGDP(国内総生産)がその他EU諸国に追いついていく「収斂」だった。

 これに対して過去数年間の成長の牽引役は大規模な建設事業と歴史的な低金利だった。ダブリンの輸送会社カーゴケアの役員で、アイルランド道路輸送協会の副会長を務めるライアム・ブリューワー氏は「不動産熱が国内に間違った成功意識を生んでしまった」と言う。

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