平成16(2004)年1月27日(火)
「教科書になくても出題できる」
つくる会の公開質問状に大学入試センター責任者が重大発言
 
 大学入試センターの「世界史」の試験問題に、「強制連行」があったと答えさせる出題をした問題について、「新しい歴史教科書をつくる会」は27日、センターに公開質問状を提出した。これは、先に、文部科学省の高等教育局大学入試室に、河村大臣あての要望書を提出した際、試験の内容の専門的な事柄については、大学入試センターに直接たずねてほしいとの意思表明があり、それを受けて行われたもの。

 同日午後、「つくる会」の藤岡、高橋両副会長と宮崎事務局長らが目黒区駒場の大学入試センターを訪れ、松浦功事業部長、広瀬進事業第二課長らと面会した。まず、「つくる会」側が7項目の質問を含む公開質問状を読み上げ、補足説明を行った。次いで、7項目の質問について、回答を求めた。

 これに対し、松浦部長は、(1)全国の大学教員に作題を依頼している。問題は学習指導要領に準拠し、高校生の使っている教科書に準拠して作成する。教科書に載っていればよいので、史実に基づいているかどうかは検討していない。(2)すべての教科書に載っていることだけをもとに試験問題をつくることは不可能である。多くの教科書に記載されていれば出題してかまわない。−−と発言した。「多くの」とは何パーセント以上かという「つくる会」側の質問には、「決めていない」と答えた。「これはセンターとしての公式見解と受け止めてよいか」と確認したが、その通りであると答えた。

 松浦部長の発言は、いずれ、30日を期限とする、文書による正式回答でも明らかにされると思われるが、重大な事態の進展である。現在、会が把握している情報では、世界史を選択した受験生が、設問を不当として採点から除外することを求める仮処分申請の訴訟をおこす模様である。今後、大きな展開が予想される。

 公開質問状の全文は、下記の通り。
大学入試センター試験の「強制連行」に関する設問についての公開質問状
 本年一月十七日に行われた大学入試センター試験の「世界史」において、重大な欠陥のある問題が出題されていたことが明らかになった。それは第1問の問5で、日本統治下の朝鮮について述べた文として正しいものを、四つの選択肢から選ばせるという形式の問題であった。正解とされたのは、「第二次世界大戦中、日本への強制連行が行われた」というものである。これは、極めて不公正で不適切な設問である。
 ここで使われている「強制連行」という奴隷狩りを連想させる用語は、戦後になってから日本を糾弾するための政治的な意味合いをもって造語された言葉であって、事実をあらわすものではない。日本統治下の朝鮮においては、「国民徴用令」にもとづく徴用が一九四四年九月から実施された。センター試験の設問は、対応する歴史的事実としては、この徴用を想定していると推定される。しかし、当時は朝鮮半島の人々も日本国民だったのであり、徴用は国家による合法的行為であった。この設問は、日本政府が第二次大戦中、朝鮮人の奴隷狩りを行ったという虚構の歴史を、大学受験という制度を利用して日本国民に押しつけようとするものである。
 徴用を「強制連行」とは異なるものであると正しく理解している受験生にとって、この設問の選択肢に正解はない。このような問題は、特定の思想を受け入れるかどうかによって解答の成否が決まり、大学入学を認められるという思想チェックの問題であり、憲法に違反し、断じて黙認することはできない。さらに、強制連行があったと信じている受験生にとっても、正解がない設問である。なぜなら、どの時期のできごとを強制連行とよぶか、その定義は人によってまちまちである。すなわち、この問題はどういう立場に立っても、正解のない、いびつな欠陥問題なのである。
 一部には、高校教科書に「強制連行」の記載があることを根拠に、出題を正当化する見解がある。教科書に載っていることと全国共通試験に出題することは次元の異なる問題であり、とうてい認めることはできない。しかし、かりに、そういう立場に立ったとしても矛盾はさけられない。当会は、高校用世界史教科書をA・Bあわせて全二十九冊調査した。その結果、「強制連行」についての記述がないものがA五冊、B五冊で合計十冊にのぼり、「強制連行」の記述はあるがそれが第二次世界大戦中であると特定できないものが世界史Bに二冊あることがわかった。本来受験生に対して公正であるべきセンター試験問題が、ある特定の教科書を使用して勉強した受験生には正解できない問題となっていることが明らかとなったのである。
 以上のことを踏まえて、当会は貴センターに対し次の通り質問する。

一、拉致問題の解決が急がれるなか、北朝鮮は拉致の責任逃れのため「強制連行」があったと主張しているが、本設問中の「強制連行」は、北朝鮮の主張するものと同じ意味を持つものなのか、それとも違うものか。違うとすれば、どのように違うのか、ご説明いただきたい。
二、日本政府が第二次大戦中、「強制連行」を指令した文書をお示しいただきたい。
三、教科書に書かれていることがただちに史実とは限らず、教科書に記載されているということだけを根拠に入試問題として出題することは正当化されないと考えるが、この点についての見解をお示しいただいきたい。
四、仮に、教科書を根拠に出題されたと考えたとしても、掲載されていない教科書で学んだ受験生にとって不利になることは明白で、設問として公正さを欠く不当な問題である。掲載されていない教科書を使った受験生が少数であるかどうかはことの本質に全く関係がない。いかなる論理によってもこのような不公正を正当化することはできないと考えるが、見解をお示しいただきたい。
五、さらに、教科書の記述を前提としたとしても、世界史教科書のうちの二冊は「第二次大戦中」と特定できない記述となっている。特定の教科書で学んだ受験生が正解できない問題は欠陥問題であると考えるが、この点についての見解をお示しいただきたい。
六、以上の質問から明らかなように、当該設問はどの角度から見ても不適切極まりない欠陥問題であり、ただちに採点から除外されるべきである。別紙のとおり、「北朝鮮に拉致された日本人を救出するための全国協議会(略称・救う会)」も先日、声明文を発表し、当該設問を採点からはずすことを求めている。火急速やかなる措置を明らかにされたい。
七、今回のような不祥事は二度とあってはならない。そのためにも、(1)今回の問題作成者が誰か、(2)責任者への処分はどのようになされるつもりか、(3)再発防止へ向けた改善策としてどのような構想をお持ちなのか、具体的に明示していただきたい。
 回答は一月三十日までにお寄せいただきたい。なお、本質問とそれに対する解答は当方において公開することとする。

平成十六年一月二十七日
新しい歴史教科書をつくる会
 会長 田中 英道 
大学入試センター所長 荒川 正昭殿