「救う会」も抗議声明発表
一月十七日に行われた大学入試センター試験の世界史で、日本統治下の朝鮮をめぐって、「第二次世界大戦中、日本への強制連行が行われた」という虚偽の内容の選択肢を正解として選ばせる問題が出題された。私は二十二日付けの本欄にその問題点を書いたが、北朝鮮に拉致された日本人を「救う会」も二十五日、「拉致被害者と家族の全員奪還が国家的課題となっているいま、なぜ、入試センターはわざわざ北朝鮮の『根拠のない主張』に通じる出題をしたのか」、「採点から除外すべきだ」とする声明を発表した。
「新しい歴史教科書をつくる会」は二十二日、文部科学大臣に設問を採点から除外するよう指導することを求める要望書を提出した。その際応対した高等教育局学生課の松川誠司大学入試室長は、「教科書に記載があるから出題してかまわない」と言った。
「強制連行」は日本糾弾の目的で戦後つくられた政治的捏造語である。教科書が記載していること自体も不当だが、その教科書を根拠に文科省は開き直った。大学入試を管轄する高等教育局が、教科書検定を行う初中局教科書課に責任を転嫁したも同然である。
では、「強制連行」を教科書が記載しているというのは本当か。「つくる会」が調査すると、「強制連行」を記載しない教科書が多数出てきたのである。まず、平成十四年度以降使用の「世界史A」教科書全十冊のうち、「強制連行」の記載がないものが半数の五冊を占めていた。「世界史B」でも全十九冊中五冊が記載しておらず、記載のある教科書のうち二冊は第二次世界大戦中であるとは特定できないものであった。
入試センターに公開質問
例えば東京書籍の『世界史B』は、「日中戦争がはじまると、朝鮮は日本の補給基地とされた。そして精神的動員を強化するため皇国臣民化政策がとられ、日本語や創氏改名が強制され、また日本の労働力不足を補うため強制連行も行われた」と書いている。この教科書は1937年に始まる日中戦争期から「強制連行」が行われたとしており、「強制連行」を1939年に始まる第二次世界大戦中に限定したセンター試験の設問の選択肢は、よく学習した受験生を混乱させ、誤りと判断せざるを得なくさせる。このように、高校世界史教科書全二十九冊のうち十二冊、実に41%にあたる教科書がセンター試験の設問通りに記載してはいないのである。
そこで、「つくる会」は二十七日、目黒区駒場の大学入試センターを訪れ、次の七項目からなる公開質問状を提出した。
<(1)設問中の「強制連行」は、北朝鮮が主張するものと同じ意味か(2)日本政府が第二次大戦中「強制連行」を指令した文書を示せ(3)教科書の記載は史実ではなく、入試問題の出題の根拠にできない(4)教科書を根拠に出題されたとしても、「強制連行」を掲載しない教科書があり、公正を欠く不当な問題だ(5)「強制連行」を掲載する教科書にも「第二次大戦中」と特定できないものがあり、正答できない(6)設問はどの角度から見ても欠陥問題であり、採点から除外すべきだ(7)問題作成者の氏名、責任者の処分方針、再発防止策を明示せよ>
史実か否かは検討せず
これに対し、大学入試センターの松浦功事業部長は次の二点にわたる驚くべき発言をした。第一に、「入試問題は高校生の使っている教科書に準拠して作成する。教科書に載っていればよいので、史実に基づいているかどうかは検討していない」とし、設問の当否を学問的検討の枠外に置くと公言し、文科省の逃げ口上を繰り返した。
第二に、「すべての教科書に載っていることだけをもとに試験問題をつくることは不可能である。多くの教科書に記載されていればかまわない」と発言した。「多くの」とは何パーセント以上かという質問には「決めていない」と答えた。「教科書に準拠」するという第一の発言と、載っていない教科書があってもかまわないという第二の発言は明らかに矛盾する。県立高校の入試問題でさえ、県内で使用されているすべての教科書が記載する事項に限定している。
センター=文科省の、逃げ口上の果ての言い分を放置すれば、一独立行政法人に過ぎない大学入試センターが、史実の検証とは無関係に出題し、出題された事項はそれ以後教科書会社も書かざるを得なくなり、センターは事実上教科書内容まで統制することになる。設問の採点からの除外を改めて強く要求する。