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2009年1月19日

◎ブッシュ退任 あまりにも重い「負の遺産」

 二十日にホワイトハウスを去るブッシュ米大統領の二期八年は、結果的に超大国アメリ カの国際的威信が大きく揺らぎ、傷ついた時代だった。なかでも米国発の国際金融危機、イラク、アフガニスタンでの「テロとの戦い」の長期化は、あまりにも重い「負の遺産」と言わざるを得ない。米国がかつての影響力を取り戻すのは容易ではあるまい。

 最初の大統領選は薄氷を踏む勝利で、国民の信を得たとは必ずも言い切れなかったブッ シュ大統領の絶頂期は、皮肉にも就任からわずか八カ月後に起きた「9・11テロ」の直後だった。負け知らずの米国の本土が初めて攻撃される事態は衝撃的であり、これまでとは違った「新しい戦争」に立ち向かう頼もしい指導者として振る舞う大統領に、ほとんどの米国民が拍手を送った。国際テロ組織アルカイダとつながるアフガニスタン攻撃を国際社会も支持した。

 イラク戦争は、開戦の大義とされたイラクの大量破壊兵器が結局見つからなかった。ブ ッシュ大統領は「最大の痛恨事」と振り返るが、大量破壊兵器の査察と廃棄を求める国連決議に十分こたえず、国際社会が信用できるかたちで自ら疑惑を解明しなかった当時のフセイン・イラク政権の非がまず責められなければならない。

 それでも、ブッシュ政権には超大国の力への過信があり、思慮不足からイラクの戦後統 治の見通しが甘過ぎた。軍事力の一方で、賢明な外交力がもっと発揮されてしかるべきであったろう。

 対テロ戦争に加え、米国型金融資本主義が引き起こした金融・経済危機の出口も見えな いまま政権を去ることに、ブッシュ大統領はさぞ無念の思いであろう。現在の深刻な金融危機の遠因はクリントン前政権の規制緩和に求めることもでき、ブッシュ政権だけのせいにするのは酷ながら、金融機関の監視・監督が不十分で市場の暴走を許し、「リーマン・ショック」という世界的な金融危機拡大の引き金を引いた責任は重い。

 歴史の大転換の舞台を用意して、退場するブッシュ大統領の八年間は、後世の歴史家の 評価にゆだねるほかない面もある。

◎高岡開町400年 堀田善衛の評価も忘れず

 高岡市は今年、開町四百年を迎えた。昨年はこの歴史の大きな節目を盛り上げるプレ事 業が多彩に行われたが、これからがいよいよ本番である。

 高岡といえば、ずば抜けた国際感覚から独特な作品を残した作家・堀田善衛さん(一九 一八−一九九八年)の生まれ故郷でもある。堀田さんが取り組んだ仕事をしっかり評価し、今に生かすことも忘れてはなるまい。

 記念事業の一環として昨年から始まった先人の生き方に学ぶ「人間探求講座」で、堀田 さんが「伏木の国際人」として取り上げられたのは時宜にかなっていた。今年は、昨秋に県立神奈川近代文学館で催された「堀田善衛展」をそのまま高岡へ持ってくる企画が進められていると聞く。堀田さんの生き方に触れ、理解を深めることにつながっていく催しである。

 堀田さんの歴史感覚は鋭かった。旧ソ連崩壊後、ペルーで日系のフジモリ氏が大統領に 選ばれた時点で、堀田さんは似たようなことがアメリカでも起こり得ると言っている。この二十日に第四十四代のアメリカ合衆国大統領に就任するオバマ氏を予見したともいえる。当時の日本で、このような考え方のできる人はほとんどいなかったはずだ。しかも、堀田さんは非白人の米大統領のやるべきこととして法の支配を根幹とする「ユナイテッド・ステーツ」である国の維持を挙げ、各民族のいがみ合いが生まれやすい「ユナイテッド・ネーションズ」の国にしてはならないとまで言及している。

 伏木の藩政時代からの廻船(かいせん)問屋に生まれ、旧制の金沢二中に学び、家では 英語しか使わせないというアメリカ人の牧師の家に寄宿し英語が身についた。戦中戦後は上海にいて、他の外国語も身につき、戦後は国際的な作家会議の日本代表をしたほか、各国を歩き、暮らしたことを通して悲惨な民族対立を知ったことが歴史感覚を確かなものにしたようだ。

 堀田さんはいろんな時代の歴史を語る物がある街を好み、現代一色の街では子供たちの 歴史感覚が育たないと言っている。高岡の行く末に対する助言に聞こえる。


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