20090118
■[雑文]「頭のよさ」をコンビニの現場から考える
頭のよさ、悪さということについて、ずっと考えている。店長を始めたころからずっとだ。コンビニというのは、ご存知のとおり、バイトのなかでも「相当に楽」と思われている職種なのだが、ある程度レベルを追求しだすと、とてもではないが楽とはいえない。そして、高レベルで店を回すために仕事のシステムが完全に組みあがってしまっている店だと、いわゆる「使えない」やつは振り落とされる傾向が出てくる。
さて、そんでもってだ。なぜ俺がこうまで「頭のよしあし」について考えなければならなったのかといえば、つまり、コンビニには、そもそもの意識が低く、また「時給の高いところだと無理っぽいからコンビニでいいや」という人材が集中しがちな傾向があること。この傾向は、アルバイトをしようと思った人が仕事を選べる都会ほど強い。そんで、俺は、以前は都会のど真ん中といっていいような場所で店長をやっていて、現在は田舎で経営者をやっている。違いは歴然だ。田舎では、アルバイトをしようと思った人は、ごく少ない選択肢のなかから選ぶしかないから、応募してくる人は、玉石混交となる。都会では、よっぽどコンビニが好きという変人でなければ「コンビニでいいや」という人がメインになる。どっちがバイトを使いやすいかなんて、言うまでもない。
主に都会での経験によって、俺は「頭がいいとはどういうことか」「人間を仕事において伸ばすにはどうしたらいいか」を10年近くにわたって考えつづけてきた。それについて考えることは、ぶっちゃけアホであるようなヤツを伸ばすときにも役立つからだ。
ここで俺は、長年にわたって考え続けてきた「頭のよしあし」について書こうと思うのだけれど、この場合の「頭のよさ」とは、「トータルで見て仕事ができる」くらいの意味だと思ってほしい。学力だけでもダメ、人柄だけでもダメ、頭の回転だけでも無理。まあ人柄は除くとしても、仕事というのは(職種による部分は大きいが)トータルの「頭のよさ」を求められることが多い、というところまでは同意していただけるのではないかと思う。
もうひとつ、前提としてコンビニの商売を高レベルでやろうと思った場合、どういう資質が要求されるかについて書いておく。コンビニの仕事の特徴は、小売業界でも有数なほどに仕事がシステム化されており、ひとつひとつの仕事は平易だが、その平易な仕事がやたらにたくさんあると思っていただければいい。求められるのは、記憶力、そして覚えたことを即座に実行できる覚えのよさ、覚えたことを忘れないこと、そして最後に「それでも思い出せなかった場合、どうするか」だ。コンビニには年に1回も利用されないサービスがごろごろしており、それらのすべてを記憶しておくことは、オーナーの俺ですら無理。マニュアルを確認するなり業者に問い合わせるなりするのだが、そのときアルバイトにはもうひとつ、「自分の責任の所在はどこまでなのか」を把握する能力も要求される。集団における自分のポジションの自覚だ。もちろん、これについては採用時にいやっていうほど教え込むのだが、わからない人間は徹底してわからないのが、この責任感覚ってやつの不思議だ。
で、ここまで書いたところの仕事が、不断に、客によって邪魔される、というのがコンビニのもうひとつの特色になる。つまり、店員ですら把握しきれず、使いこなせないさまざまなサービスを、客がまともに把握しているはずはない。そうでなくても、コンビニにはレジという一大業務がある。それを「こなしながら」店を、あるいは客を管理していくことが店員の仕事となる。
さらにいえば、もっとも必要とされている能力は、こうした雑多な仕事を自分なりに組み立てて、最大の効率で片付けていくことそのもの、にあるかもしれない。
あ、あとひとつ、重大なこと忘れてた。日本語の能力。人の言葉を理解する力が低いやつって、たとえどんなに回転が速くても、現場じゃ使えない。
ここまでのところは、おそらく世間で「地頭」と呼ばれる頭のよさでカバーできる領域だ。実際「使えるバイト」と呼ばれるやつは、たとえ中卒でもけっこういたりする。学力と無関係でないのは明白だけど、対応関係と呼べるほど強くはない、というのが実情。
問題はここから先だ。コンビニが小売業界で、まぎれもなく最先端を走っている分野がある。販売データの蓄積と、その活用システムだ。それを「基本的に」素人でも使えるようにしているところにコンビニの特徴がある。
基本的に、という部分にわざわざカギカッコをつけるのには理由がある。そのままデータを鵜呑みにし、チェーン本部の言うとおりの売場を作っていたのでは、立地的にもともと客数が見込める店以外では、あまり「売れる」売場を作れない。それ以上に客を「誘導」し、「発見」させ、衝動買いさせる売場を作るためには、自分の頭でデータを解析して、それを売場に反映させなければならない。発注業務というのは、そういう部分を含む。
俺自身、20年近くのコンビニ経験のなかで、何人かの発注の達人を見てきた。そしてそいつらは、ほぼ例外なく学力も高く、高くない場合でも、本人にあからさまに勉強をする気がなかったか、あるいは環境が彼、あるいは彼女に勉強する機会をまったく与えなかったかのどちらかだ。つまり、発注、売場管理ができる人間は、例外なく勉強もできると考えていいと俺は思った。
ちなみに、こうした人間には「勉強ってどうやってやってる?」と質問することが多いのだが、回答は以下のようだ。
「授業だけ寝ないでがんばってれば、あとは一夜漬けでしょ。暗記しなきゃいけないところと、そうじゃないところがあるから、暗記するとこだけ一夜漬けでいいし」
「勉強? 家で? あんましたことないです……」
「ノートじゃないすかやっぱ。あー、ノート見てワケわかんなかったら自分でまとめなおします」
「高卒の資格さえとれればいいってわかってたから、赤点すれすれになるようにしか点数とってなかったよ」
共通している要素は「最初から点数をとる方法を理解していて、それにあわせてしか勉強していない」ということ。つまり「勉強というシステム」のほうを先に理解しているわけだ。ちなみにこういうタイプは、どういうわけか国語全般と英語の長文問題がやたらに強い。ちなみに、このへんの話は、俺自身が偏差値50程度の高卒なので、あまり鵜呑みにしないほうがいいかも。観察の結果「俺はそう思った」っていうだけの話だから。
話は発注という業務に戻る。
発注・商品管理でなにより必要とされるのは、過去の販売データが「どういう意味を持つのか」把握することだ。固定客が極端に同じ商品を買い続ける場合を除き、売れる商品というのは、パッケージ、価格、商品の中身、販売時期、その店の客層、陳列した場所など複数の要因によって、必ず「売れる理由」がある。あまり細かく書くと業界者しかわからない世界に突入するので、ごく大雑把にまとめると「商品が売れるという、一見、運や偶然に頼っている現象を、できるだけ細かいパラメータに分解し、パラメータがそのようになっている理由を把握すること」とでもいえるだろうか。たとえとしてあっているかどうかはわからないが、理想の音質を想定し、グラフィックイコライザーを調節すること、あるいは逆に、現状の音質から、どうやってグラフィックイコライザーを調節したらいいか想定する能力でもいい。
ある商品がある。「こうすれば、売れる」という単一の理由ならばそれはひとつのシステムだ。しかしその理由が何十にもなれば、それはほぼ不確定要素に近い。そして発注をする人は、可能な限り、その不確定要素の占める割合を潰していくのが仕事になる。ちなみに、何年にも渡り経験を積んで、こうした要素のひとつひとつを体感で把握していき、達人の領域に達した人の発注能力のことを「勘」といったりする。
そして、最終的に完成した「稼げる売場」が、実際に稼げるかどうか、稼げなかったのだとしたらどこがまずかったのか、それを自分自身で把握し、売場にフィードバックする能力こそが、最後に必要とされるものだ。
さて。ここまで長々と業界話を続けてきた。まだ読んでくれてる人いますか……?
でもって、こういうことを長年、えんえんと現場で考え続けて、あるいは観察しつづけてみて、こと仕事においては、頭のよさというのは、つまり「システムを把握する能力」と断言してよいのではないか、と考えるようになった。システムとは、つまり因果関係であり、構造だ。対象が、目に見えない、手にも触れないものの場合は、そうしたものを頭のなかで展開させる能力でもある。
そして、システムを万全に把握したうえで、新たに自分自身でシステムを作り出せる人間が、いちばん強い。
まあ、こう言うと、古典的な守破離ってな話になるわけなんだけど、まあそれはそのとおり。必要なのは「守るべきこと」というのが単なるシステムであり、現実にあわせて柔軟に変化させなければならないのだ、つまりシステムが「なんのために」存在しているのかを理解できること。システムを把握するということは、すべてのシステムはなんらかのシステムのメタであり、この世界は(とりあえずは)メタの網の目でできていることを理解することだ。
さらに還元するならば、それは「目の前にあるものが、ただそのようなものではない」ということを理解すること、ひいては「すべてを疑うこと」なのかもしれない。
最後に、見るからにアホそーな人が、コンビニで買いものをするときによくやる行動をあげておく。
レジに来る。買い忘れを思い出して、売場に走りなにかを取ってくる。それを数回繰り返して、結局は相当の金額を買ってくれる。ありがとーござーまー。でもうぜえから一度で買ってね☆
まあ、なんですか。これってつまり、自分がなにを買いに来ているのか、なんのために買うのか、んでもって、自分の日常生活のなかで必要なものはなんなのか、という前提がなくて、「欲しくなったもの」を場当たり的に思い出していくからこういうことになるんだよね。
おまけ。ちょっとは役に立つかもしれないこと書いてみる。
アホなバイトを使いこなすのに苦労している世の管理職とか店長の方へ。上述のようなことを考えて、俺がたどりついた「アホの使いかた」的なものを書いてみます。参考になれば幸いです。
仕事を教える場合は、可能な限り、すべてを定型業務に還元すること。単純作業ってことですね。「こういう場合は、こう」というように定式化する。そして同時に「そのときに絶対やってはいけないこと」という禁止事項を徹底的に叩き込むこと。「やらなければならないこと」と「やってはいけないこと」の両面から行動を制約することによって、単一のシステムで動くようにその人間を縛るわけです。もちろん例外的な事態は日常的に起こるわけですけど、その場合「パターンから外れることはすべて、ほかの人に質問しろ」と言う。もちろん手がかかるわけですけど、そこはもう、仕事において能力のない人を使っているわけで、そこをコストと割り切るしかないです。また、禁止事項については「こんなことをすると、おまえは(あるいは周囲のだれかが)ひどい目にあう」というかたちにすると効果があります。利益とか損失とかだめです。それは抽象概念ですので。
ちなみに以上のすべての文章は、俺は、仕事においては「店のトータルのレベルが上がることにより、バイトの店に対する帰属意識が高まる、そしてその結果として利益が上がる。利益が上がればバイトに還元できる」という大前提に依拠しています。典型的にES寄りの人だと思ってください。そしてESを上げるためには、職場にいる人間が可能な限り戦闘集団でなければならない、という、かなり古典的なモデルを採用していることも付け加えておきます。
え、オチどこ? この文章オチないよ。あ、オチあった。店長、変態だわ。バイトが一生懸命仕事してるとき、事務所で「おんなのこのよだれは聖なる液体です」とかついったーに変態ポストしてるわ。以上、職場からの更新でしたー。仕事しろオーナー! 家帰ってえろげやろ!
※追記
うわあ。こんなにブクマつくと思ってませんでした。えーと、ちょっとライフハックっぽいタイトルつけておきながら、実質あんまり役に立つ内容じゃなくてすいませんでした。しかもちんちんもたたないし。いいことないです。
自分自身が思考を整理しながら書いてるような状態なんで、前段と後段が分裂してるとかいろいろ反省点はあります。ブクマコメントでも書きましたが、近いうちに同じテーマで再挑戦したいものです。
あと、結局エントリに時間食われすぎてえろげやる時間なかった。
てゆうわけで、ブクマしてくださった方には、もれなく、うちのバイトの女の子(声優志望、いつも寝不足で、ちょっと弱気で意地っ張りで、ドジっ子で、そのうえトラウマもちで、愛想笑いとかできなくて、でも笑うとかわいい子)のほっぺたについた消しゴムのカスをさしあげたいと思います。送付方法は、俺が、いきりたったちんちんで消しゴムのカスをかっ飛ばします。すると、それがあなたの顔面にべたーってくっつきます。
すいません。恩を仇で返しました。あなたに届け! 俺の汚染物質!