イスラエルがパレスチナ自治区ガザにおける「一方的停戦」を宣言した。その後もハマス(イスラム原理主義組織)との応酬は続いているが、双方の軍事力の差は歴然としている。既に1300人を超えた死者のさらなる増加を防ぐには、イスラエルの自制が不可欠だ。ハマスも停戦の意思を表明したことを歓迎したい。
米国ではオバマ次期大統領が20日の就任式に向けてワシントン入りした。イスラエルの停戦宣言の背景には、ガザの流血を次期政権に引き継ぎたくないブッシュ政権の思惑もあっただろう。79年秋からイランの米大使館で人質になっていた米国人たちが81年1月20日、カーター大統領(当時)の任期が切れる寸前に解放された例もある。
停戦宣言後もガザ情勢が落ち着いたわけではなく、ハマスのロケット弾攻撃もイスラエルの爆撃も続いた。文字通りの停戦に向けて国連や米国、エジプトなどにさらなる仲介を望みたい。ハマスやレバノンのイスラム組織が、イスラエル攻撃を完全にやめるべきなのは言うまでもない。
訪米したイスラエルのリブニ外相はライス米国務長官との会談で、ガザ地区への武器密輸防止に米国が関与することで合意したという。またオルメルト首相は昨年末から3週間に及んだ攻撃がハマスに大きな打撃を与え、軍事作戦は成功したと成果を誇った。
だが、80年代に旗揚げしたハマスとイスラエルの戦いは、既に20年余りに及ぶ。今回の軍事行動でハマスとの抗争が終わる保証はなく「中東和平は軍事力では達成できない」との教訓を再確認しただけと懸念する人も多い。イスラエルが06年に大規模な攻撃を加えたレバノンでも原理主義組織の力は衰えていない。
イスラエルの平和と安定のためにも交渉の枠組みが必要なのだ。オバマ次期政権の中東政策はまだ不透明だが、「イスラエル一辺倒」といわれたブッシュ政権の姿勢を引き継ぐようなら、結局はイスラエルと米国を取り巻く敵意を緩和することはできそうもない。
ハマスも武装闘争路線を見直し、アッバス・パレスチナ自治政府議長が率いるファタハとの歩み寄りを考えるべきだ。二つの自治区のうちヨルダン川西岸でファタハの、ガザでハマスの実効支配が続いているのは、パレスチナ人にとって不幸である。威信低下がいわれるアッバス議長の踏ん張りどころではないか。
当面の課題として、ガザの「密室」状況を改善する必要もある。子供を含めてどれだけの市民が犠牲になったのか、イスラエル軍による国際機関への攻撃が相次いだのはなぜか、白リン弾などの使用は事実なのか--など解明すべき点は多い。国際社会の良識ある対応のために、まずはガザの実態を明らかにすべきである。
毎日新聞 2009年1月19日 東京朝刊