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社説

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ガザ混迷―本格停戦へ国際的仲介を

 パレスチナ自治区のガザへ3週間以上も攻撃を続けているイスラエルが、一方的な「攻撃停止」を宣言した。

 すでに多くの民間人を含む1300人以上の人命が失われており、過剰な武力行使に対する世界の非難が高まっている。イスラエルの攻撃停止は当然である。

 それを受けて、ガザを実効統治しているイスラム過激派ハマスも「攻撃停止」を発表した。1週間の攻撃停止の期間を設定して、その間にイスラエル軍の撤退を求めるとしている。

 イスラエルとハマスの攻撃停止は、それぞれ一方的で、国際的世論を味方につけようとする狙いが強いようだ。それが駆け引きであっても、一時的な休戦状態が生まれ、国際的な仲介が入る余地ができることを期待したい。

 ただし、現地の状況は厳しく、全く楽観を許さない。イスラエル軍は「宣言」後もガザ市などの住居地域を包囲している。ハマスや他の武装組織がロケット弾攻撃を行えば、いつでも「報復」する構えを崩していない。

 また、ハマスがガザを制圧した07年6月以来、イスラエルが課している厳しい封鎖が解除される見通しもない。

 ガザには150万人が住んでいるが、全域で1日16時間も停電し、半分の地域で1日数時間の水道給水しかない生活を強いられる。病院では医薬品が底をついている。国際法違反の占領地への「集団懲罰」である。

 オルメルト暫定首相は「われわれはガザの民衆と戦っているわけではない」と語った。しかし、パレスチナ住民にとって封鎖のもとでの「停戦」は、イスラエルによる兵糧攻めにじっと耐え続けることでしかない。これでは実効ある収拾策になりようがない。

 イスラエルが占領地を封鎖している状態で、停戦を実現することがどんなに難しいかは、2000年秋からヨルダン川西岸で始まったパレスチナ人のインティファーダ(反占領闘争)の時に、十分経験済みだ。

 当時、イスラエル軍とパレスチナの武装勢力の間で戦闘が激化した。米国は当時のテネット中央情報局(CIA)長官ら特使を繰り返し派遣して、停戦を仲介したが、成功しなかった。

 今回は米国の停戦仲介さえない。さらに、イスラエルの攻撃停止に応えてハマスがロケット弾攻撃を止めた場合、いつ撤退や封鎖解除が始まるのかという日程も示されていないし、停戦違反を監視する枠組みもない。

 エジプト大統領やパレスチナ自治政府のアッバス議長、英国など欧州の指導者らが集まり、停戦実施のための首脳会議がエジプトで開かれた。

 事態収束のためには、国際的な仲介を実らせ、イスラエル軍の撤退と封鎖解除を含む一日も早い本格的な停戦合意の枠組みをつくることが必要だ。

欧州の派遣労働―均等待遇で競争力を培う

 給与や休日で派遣労働者と正規社員とを差別的に扱ってはならない。そうした均等待遇を義務づける法律を加盟各国が作らなければならない。

 欧州連合(EU)は6年越しの議論を経て昨秋、こんな内容の指令を正式に決めた。日本の現実からすると、まさに別世界のような話だ。

 さすがに、派遣先の企業の企業年金に加入したり、持ち株会に参加したりすることまでは求めていない。だが、派遣労働者が正社員と同じような仕事をしていれば、各国は同じ待遇を保障すべきであると明確にうたっている。

 育児休暇や社員食堂の利用、社内教育なども対象だ。原則として派遣労働者が働き始めた初日から均等待遇にするが、各国が労使間で協議し猶予期間を定めてもよいことになった。

 推進役はドイツやオランダなどの大陸諸国だった。企業は株主だけではなく、労働者にも支えられている。そんな考えから、これらの国々はすでに派遣労働に均等待遇を導入しているが、今回の指令で英国や新加盟の中東欧諸国も、向こう3年以内に法制化しなければならなくなった。

 欧州での派遣労働は、90年代に英国やドイツなどで急増し、いまや300万人を超える。だが、待遇や権利などその内実は日本とは大違いだ。

 日本では派遣労働者の多くが正社員との賃金格差にさらされている。欧州でも経済危機で失業者が増えているが、日本のように派遣労働者にしわ寄せが集中することもない。

 そもそもフランスなどでは、派遣労働を産休や育児休暇などによる一時的な労働力不足を補う目的に限っている。ところが日本では事実上、企業の人件費減らしのために常用雇用を置き換える例が少なくない。

 失業に備えた安全網の違いも大きい。多くの欧州諸国は失業手当を派遣にまで広げている。さらに、次の仕事につくための職業訓練も充実させている。一方、日本はそうした措置を十分取らないまま、規制緩和に突き進んできた。

 職種別賃金が普及する欧州と、企業内交渉で賃金が決まる日本では事情が違い、安易には同列に論じられない。

 だが、見過ごせないのは、EUが均等待遇を進めている背景に、国際競争力を高めようという戦略があることだ。少子高齢化による労働力人口の減少に備え、派遣やパートなど多様な働き方を定着させて働き手を少しでも増やすとともに、一人ひとりの能力も向上させようというのだ。

 今、日本では、製造業分野の派遣労働を禁止すべきかどうかが大きな議論になっている。だが、長期的には均等待遇の実現こそがめざすべき方向だ。欧州の事情を頭に置きつつ、議論を深めたい。

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