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全国学力テスト参加か、影響は…揺れる市町村教委 3府県の動向は

 ◇積極的な成績公表の3府県

 全国学力・学習状況調査(全国学力テスト)の市町村別、学校別成績を公表する動きが広がりつつある。過度な競争をあおることを懸念する声もある中、積極的に公表を進めている秋田県や大阪府、鳥取県の現状を追った。【三木陽介、平川哲也、宇多川はるか】

 ◆どうなる「実施要領の順守」--秋田県

 ◇知事主導で市町村別 反発出て県教委火消し

 07、08年度と2年連続で成績が全国トップクラスだった秋田県では昨年、市町村別の平均正答率が2度にわたって公表された。

 1度目は、市町村名は黒塗り。県情報公開条例に基づく請求に応じて県教委が10月22日に開示した。黒塗りは「都道府県教委は市町村名、学校名を明らかにした公表は行わないこと」という文部科学省のテスト実施要領に従った措置。県教委のスタンスは「あくまで各市町村教委による自主公表」(総務課)だった。

 しかし、2度目は市町村名も公表され、大きな波紋を呼んだ。12月25日。公表者は寺田典城知事で、「情報を共有することが教育の向上につながる」と述べた。

 市町村教委からは「現場は学力向上へ努力している。現に過去2回の結果は伸びている」「市町村別の平均点を公表して何の意味があるのか」などと批判が相次いだ。

 特に小中学校が1校ずつしかない町村の反発は大きかった。「事実上学校の成績が公開された。点数ばかり注目すると肩身の狭い思いをする子供が出てくる」(井川町の中山英悦教育長)、「母数が小さいと一人一人の成績が大きく左右する。母数の大きい自治体と比べるのはナンセンス」(大潟村の高橋一郎教育長)。

 09年度テストへの不参加の動きが出ることを恐れた県教委は火消しに躍起となった。1月5日付で知事に抗議文を出し、7日には各市町村教委の教育委員長あてに「県教委は実施要領を順守する」との方針を強調した上で、テストへの参加を呼びかける通知文をファクスした。

 県教委の動きが奏功したのか、毎日新聞の調べでは、16日現在で結論を出した15市町村のうち不参加を決めた自治体はない。

 残り10市町村はまだ決めていないが、どの市町村教委も学力テストの意義は「認める」との態度だ。羽後町の加藤忠紀教育長は「現場の先生からも、工夫された問題が多いとの声が多い」と話す。藤里町が唯一「県が公表するなら不参加」との方針を決めたが、「要領にのっとってやるなら参加」(古川弘昭教育長)としており、21日に再検討する。

 しかし、各市町村教委とも知事の公表方針には神経をとがらせている。参加を決めた市町村教委でも「実施要領の順守」を参加の条件に挙げるところも少なくない。県教委は知事を説得できるのか。ある町教委幹部は「県教委を信じるしかない」と不安を口にしている。

 ◆学力向上への足掛かりに--大阪府

 ◇データ共有で活路 具体策まだ見えず

 全国学力テストの結果が2年連続で低迷した大阪府では昨年10月、府情報公開条例に基づき、橋下徹知事が市町村別データを一部開示した。43市町村のうち、小中学校とも開示したのは市町村教委が自主的な判断で公表していた32市町分で、「1校しかない」などの理由で中学校を非公表とした3町村分は小学校だけを開示した。橋下知事は「教育の課題を地域や家庭と共有し『もっと頑張れ』の声が上がるようになれば」と語る。これを受け、非開示とした市町村教委も含め、学力向上への動きが出始めている。

 守口市教委はデータ公表に合わせ、「学力向上・学習状況改善重点プラン」をホームページで発表した。全国に比べ読書や家庭学習の時間が少ないことなどを説明。▽学ぶ意欲の育成▽言語力の向上▽家庭学習・生活習慣の定着--の3点からなる課題を掲げ、「平均正答率を上げる」など5項目を10年度までの達成目標に定めた。財政難で新規事業を組めないため、学校図書館の常時開放など年度内の対応策は限られるが、市教委は「データ公表で、少しでも学力を向上させるためには何をすべきかを考えるようになった」と話した。

 府教委は今年度から3年間で30億円を積み立てる「大阪教育ゆめ基金」を設置。朝の短時間で基礎学習を行う「モジュール授業」や携帯ゲーム機を利用した反復学習など、市町村教委が要請した事業に充当する。学校に指導や助言をする市町村教委の指導主事に対する研修も行う。府教委は「志を一致させるため、教育現場へ何をどう伝えていくかは大きな課題」と力を込める。家庭や地域に対しては、基礎学習のワークブックをホームページで公開した。

 ただ、どの程度の成果が上がるかは未知数だ。府南部の主婦(44)は「ホームページ上で公表した時点で全部終わったという感が否めない自治体もある。市町村教委の温度差が、家庭の意欲に反映されてしまうのでは」と話す。

 大阪教育大の田中博之教授(教育方法学)は「公開後に新たな政策を打ち出す市町村はあまりなく、無風状態。点数公開をテコに市町村を動かそうとしても、うまくいかない。府も学力向上の新たな予算を講じつつあるが、市町村が最も望むのは教員の増員。人と金がないと、具体的に動くことはできない」と指摘する。

 ◆活用派と慎重派に分かれ--鳥取県

 ◇県情報公開条例を改正 請求により学校別開示

 鳥取県教委は昨年10月、市町村別と学校別のデータについて、非開示の方針を転換し、09年度分以降の開示を決めた。「県情報公開条例に沿って開示すべきだ」という市民団体や県議会などの批判に押された格好だ。ただし、市町村教委や学校の反発を和らげるため、開示情報の使用に際して開示請求者に「配慮」を求め、使用に一定の制限を加える県条例の改正を開示の前提とした。県議会は12月、条例改正案を可決、成立させ、都道府県レベルで初めて学校別データの開示が決まった。

 県内19市町村教委のうち12市町教委は当初、序列化などを懸念し、「09年度テストに参加するかは未定」と態度を保留した。うち2市7町教委はその後、「懸念は残るがテストで得られるデータは貴重」との理由で参加を決めた。

 このうち江府(こうふ)町教委の藤原成雄教育長は「全国学力テストで家庭学習が足りないと分かったら家庭学習月間を作るなど、データを有効に活用する体制が既に整っている」と話す。懸念については「心配すればキリがない」と見切りを付けた。伯耆(ほうき)町教委の圓山湧一教育長は「子供の学習状況を把握するためにデータを活用したい」と説明する。

 参加を決めかねている教委もある。昨年末に県教委との意見交換会で、鳥取市教委の中川俊隆教育長は「学校別データがネットに流れたら止められないのではないか」と語気を強めた。県教委は「開示請求者のモラルに訴える」との説明を繰り返すばかりで、中川教育長は納得できない。同市教委は19日の教育委員会で参加・不参加を決める。

 米子市教委は学校を通じ、「開示が子供に影響があると考えるか」について保護者の意見を集約した上で参加の可否を決定する。「開示による影響を危惧(きぐ)する声が多ければ考慮せざるを得ない」と慎重な姿勢を崩していない。

 一方、南部町教委は昨年10月、学校別データの開示請求に対し開示を決めた。教育委員が「教育は地域とともに考えるべきだ」との意見で一致したという。同町教委は全国学力テストを「教育施策や現場での指導改善に十分活用できる」と評価し、09年度についてもいち早く参加を表明した。

毎日新聞 2009年1月19日 東京朝刊

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