社 説

産科医療補償/救済の手だて広げる一歩に

 出産で事故が起きた時、妊婦側に補償金が支払われる新しい制度がスタートした。
 東北では出産を扱う病院・診療所の243カ所が全部、新制度に加入した。

 対象の範囲は限られている。脳性まひの赤ちゃんが生まれた場合だけで、しかも幾つかの条件を満たさなければならない。

 それでも意義をくみ取りたいのは、医師や助産師らに過失がなくても適用する初めての無過失補償制度だということだ。

 福島県立大野病院産婦人科で手術中に女性患者が死亡し、担当医師が逮捕された事件(無罪確定)が、実現を後押しした経緯がある。

 医療訴訟の減少や産科医不足の解消に向けてすぐに効果が表れることはないかもしれない。しかし、事故後の患者側の負担を少しでも減らす道が開けたのは確かだ。

 当初は産科に限らず、すべての診療科での適用を目指していた。医療事故被害の救済の手だてを広げる一歩が踏み出されたと位置付けて、当面の制度運用に心を砕いてほしい。

 運用主体は財団法人の日本医療機能評価機構。医療施設が評価機構を通じて保険会社と契約し、1件3万円の掛け金(保険料)を支払う。掛け金は出産費用に上乗せされるが、出産育児一時金を増額して妊婦の自己負担が増えないようにした。

 妊婦側に支払われる補償金は総額3000万円。赤ちゃんに重度の脳性まひが残ったことに加え、出生時の体重や先天性の病気の有無などの要件がある。

 脳性まひ以外にも重度の障害が残った場合は認めるべきだ。事故なのか先天性なのかの線引きは難しい。補償の限定要件については、そんな課題が指摘されてのスタートとなった。

 補償の範囲をめぐる議論との関係で注目されているのが、掛け金の余剰金がどの程度になるかという点だ。

 余剰金の幅が大きく見込めるのであれば、先天性の病気の場合も含めて補償範囲を拡大できる可能性が広がる。保険会社の手数料など運用経費の情報公開と内容の精査が欠かせない。

 評価機構は補償の円滑な機能と併せて、事故原因を調査、分析する大事な役割も担う。調査結果を妊婦側に丁寧に説明し、ほかの医療関係者も納得できる再発防止策につながるような仕事を心掛けてほしい。

 産科医療は損害賠償訴訟が多く、産科医不足の要因の一つとされてきた。日本医師会が産科に限定して補償制度の創設を提言したのはそのためだった。

 事故原因についての説明をきちんと聞ける場が設けられ、早期救済が進めば、医療への信頼が増す契機になるのではないか。ほかの診療科にも広げていく出発点になることを願う。
2009年01月19日月曜日