
大学入試センター試験の世界史に「強制連行」を確定的な史実とみなす出題がなされた件で、「つくる会」は文部科学省や大学入試センターに対し要望書や公開質問状を提出し、当該設問の採点除外や出題者の氏名公表、責任者の処分等を求めてきたが、去る2月13日に開催された自民党の「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」の総会に出席した鬼島康弘・大学入試センター副所長は、センター試験出題者の氏名公表について「文部科学省とも相談して検討したい」と約束した。「若手議員の会」では、文部科学省と大学入試センターの今後の対応をにらみつつ、近々改めて総会を開催して本問題をさらに追及していくとしており、今後の進展が期待される。総会の概要は以下の通り。
文部科学省、大学入試センターからも担当者が多数出席
約2年ぶりに開かれた「若手議員の会」の総会には、自民党の安倍晋三幹事長、古屋会長ほか同会役員、所属議員に加えて、文部科学省、大学入試センターの担当者、当会の藤岡信勝副会長らが出席した。総会では最初に、中川昭一経済産業大臣、安倍幹事長の顧問就任のほか、古屋圭司会長、衛藤晟一幹事長、下村博文事務局長らからなる新役員を決定。その後、大学入試センター試験の「強制連行」出題問題に関する討議に移り、文部科学省の金森越哉審議官、大学入試センターの鬼島副所長、当会副会長の藤岡信勝東大教授から意見を聴取した後、出席議員から文科省、大学入試センターの責任を問いただす意見が出された。
本問題に関して、文部科学省および大学入試センターは、これまで当会の質問に対して、教科書に記載されているかどうかが問題であり、それが事実かどうかは問わない、との見解を繰り返してきた。総会の場でも両者は、従来の見解を補強する立場からそれぞれ提出した資料をもとに、文部科学省の金森審議官は「強制連行」の用語が一般の歴史辞典や概説書にどのように記載されているかを紹介した後、検定でも現在の学説状況に照らしてこの用語を用いて記述することを許容している旨を明らかにし、大学入試センターの鬼島副所長は、センター試験の問題作成の経緯やチェック体制について説明を行った。
藤岡副会長が、文部科学省の不見識を糾弾
これに対して藤岡副会長は、問題となったセンター試験の内容を紹介した後、文科省、大学入試センターの見解を批判する立場から、概略次のような指摘と質問を行った。
・ 文部科学省は「強制的に…連行」なども「強制連行」の記述例に入れているが、問題の本質は、「強制連行」という言葉が確定したタームとして使われていることである。
・ 「強制連行」の用語は1965年、朴慶植という朝鮮総連の大学教師によって、日韓基本条約締結に反対する等の政治的背景から使われ始めた。
・ つまり、「強制連行」は糾弾のために造られた言葉で、「奴隷狩り」のような悪のイメージを喚起するのが狙いであり、歴史の事実を指し示す言葉ではない。
・ 「強制連行」論は歴史的な検証にたえるものではなく、多くの研究者からも批判されてきた。これに関しては日本政策センターの岡田邦宏副所長著『朝鮮人強制連行はあったか』に適切にまとめられており、読んでいただきたい。
・ 文科省は「強制連行」は多くの学者が使っているから問題ないと釈明したが、不見識である。問題の核心は、「強制連行」と称すべきような事実が本当にあったかどうかである。
・ 「強制連行」の定義自体が曖昧。例えば、北朝鮮側は840万「強制連行」説を唱え、拉致問題を相殺しようとしている。北朝鮮のいう「強制連行」の定義と文部科学省の定義は同じなのか、違うのか答えていただきたい。
出席議員からも出題者公開の追及が相次ぐ
この後、若手議員の会と、文部科学省、大学入試センターとの間で活発な討論が繰り広げられたが、その主なやりとりは以下の通りである(2月14日付産経新聞を参照)。
文部科学省 「北朝鮮の840万説がいかなる定義に基づくかは知らない。「強制連行」については、一般的な学説状況を踏まえて検定している。文科省が事実を認定するとして検定しているわけではない。」
大学入試センター 「センター入試は教科書をベースに問題を作っている。今回の問題は多くの教科書に「強制連行」が載っているので作られた。」
若手議員の会 「教科書に載っていれば、事実かどうか検証しなくていいのか。」
大学入試センター 「教科書に載っていればよい。」
若手議員の会 「センターが配布した試験問題作成に関する資料には『高等学校で使用されている教科書を基礎とし、特定の事項や分野に偏りが生じないよう留意する』とあるが、「強制連行」の設問はこれに反しているのではないか。」
大学入試センター 「問題作成は、教科書全体から見て、地域性・経済関係・文化関係などに偏りが生じないよう出題している。」
若手議員の会 「センター試験は誰がつくるのか。」
大学入試センター 「主に大学教授でつくる「教科科目第一委員会」で作成する。」
若手議員の会 「第一委員会の委員の人選は誰が行うのか。」
大学入試センター 「大学入試センターに人選は委嘱されている。世界史の問題は世界史の専門家が作成する。委員の名前は漏洩の危険もあるので公表できない。」
若手議員の会 「公表できない法的根拠があるのか。」
大学入試センター 「ない。公表しないで25年間やってきた。」
若手議員の会 「公表できないということは、チェック機能がないということだ。偏った委員かどうかを国民がチェックすべきで、事後にも公表しないのはおかしい。このままでは、再び同じ問題が生じる。」
大学入試センター 「問題作成にはたくさんの方が関わり、相互チェックもしている。問題作成に影響を受けないようにしなければならないので、事後も委員は公表できない。」
若手議員の会 「これではセンター試験ではなくレフト試験だ。文科省はセンター試験に大きな責任がある。「入試センターに任せている」などという責任回避はできない。入試終了後も問題作成の名前を公表できないというのはおかしい。」
大学入試センター 「文科省とも相談して検討したい。」