全大発 64 通知 49
2004年 4月 9日

各単組委員長 殿

全国大学高専教職員組合
 書 記 長 森田 和哉

全大教が、大学入試センター試験出題委員の
氏名公表問題で文部科学省と会見



本年1月に実施された2004年度大学入試センター試験における「世界史」の出題に関して、「新しい歴史教科書をつくる会」から設問に不適切なものがあるとして、採点から除外することを求める要望が提出され、これを受けて、自由民主党の「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」に文部科学省の担当者が出席し、同試験の出題委員の氏名を公表することを前提にして、公表の仕方を今後検討する方針を明らかにしたことが報道されています。
このことが事実であれば、入学試験の公正性の確保や出題委員に対する外部からの働きかけや圧力の可能性が否定できない等情報公開一般の論理では律せられない問題点を含んでいます。
こうした状況をふまえ、全大教は文部科学大臣宛要望書(別記)を提出するとともに、4月5日に文部科学省との緊急の会見を行いました。
会見には、文部科学省から大学振興課の松川大学入試室長及び福治同室長補佐が、全大教からは、三宅副委員長、森田書記長、藤田書記次長、村井中央執行委員、林 大学教育プロジェクト委員が参加しました。
 
会見では、最初に森田書記長が「大学入試センター試験出題委員の氏名公表問題に関する要望書」の趣旨について説明し経過の説明を求めました。それに対して、文部科学省から以下のような経過説明と見解が示されました。
 
(文科省) 全大教「要望書」にあるとおり、「つくる会」から、今年実施したセンター試験の世界史の出題に関して、記載のような要望が出されたこと、また、自民党の「若手議員の会」の要請に応じて同総会に大学入試センターや文部科学省の関係者が出席したことは事実である。
しかし、問題になった「強制連行」という用語は教科書検定においてもこれを用いて記述することを許容しており出題に何ら問題はないというのが文部科学省の見解である。
また、試験終了後における出題委員氏名について前向きに検討していることも事実である。これは、「つくる会」からの要求に応じたということではなく、情報公開の流れの中で検討していることであり、公正性を損なわない限り、すべての情報は公開すべきであるとの立場からのものである。大学入試センターが独立行政法人になったことからも業務の透明性を高めることが必要であり、可能な限りオープンにすることが望ましい。従前から出題委員の氏名公表等について要望も出されており、文科省としても大学入試センターからの説明も受けたが事後であれば公表も可能ではないかと考えているところである。
 
(全大教) 大学入試センター試験は、緻密なシステムと関係者の努力によって、世界に例を見ないものとして定着してきたものである。その仕組みを変えることについては、公正性を確保するという観点から慎重のうえにも慎重を期さなければならない。また、センター試験でこうした措置をすることは、当然ながら各大学の個別学力試験の実施体制にも影響を与えることになる。
 
(文科省) 慎重を期すということについては、指摘のとおりである。個別学力試験との関係については、個別学力試験は大学の判断でやられることであり、各大学の判断を尊重する。
 
(全大教) 事後であっても出題委員氏名を公表すると受験産業関係者が問題作成に関する情報を聞き出そうと働きかける恐れがあり、そのことから、機密性が保たれない危険性もあり、出題委員になることを躊躇されることもあり得るのではないか。
 
(文科省) 意見としてお聴きするが、出題委員に対して、業績として評価される仕組みをつくることが必要だと考えている。そのことにより多くの人に引き受けて頂きたいと考えている。
 
(全大教)   今回のようなケースが起これば、出題委員への圧力・身辺の危険さえ想定されるのではないか。出題作業に悪い影響を与えることを危惧している。
 
(文科省) 氏名の公表と言っても「出題委員会全体」を公表することであり、問題毎にその出題者を公表すると言うことではない。組織全体として責任をもつことであり、出題委員個人に圧力がかかるようなことはないものと考えている。
 
(全大教) 文科省の見解を伺っても、出題委員氏名の公表によって大きな弊害が生じることを危惧する気持ちに変わりはない。入学試験という特別の性格からも、改めて、センター試験出題委員の氏名公表については再検討し撤回されること。及び、センター試験の公正性を保つべく、外部の不当な介入がないよう、監督省庁としての責務を果たしていただくことを強く要望したい。
 
(文科省) 「不当な介入」とはどういう意味かということもあるが、外部からの介入は拒否する立場に変わりはない。要望については承ったので今後の参考にしたい。
 
  

( 別 記 )

2004年4月5日

文部科学大臣
河 村 建 夫 殿

全国大学高専教職員組合
中央執行委員長 関本 英太郎


大学入試センター試験出題委員の氏名公表問題に関する要望書




 新聞報道などによれば、本年1月に実施された2004年度大学入試センター試験(以下、「センター試験」と略す)における「世界史」の出題に関して、「新しい歴史教科書をつくる会」から設問に不適切なものがあるとして、採点から除外することを求める要望が出されたと伝えられています。このような動きを受けて、2月26日には自由民主党の「日本の前途と歴史教育を考える若手議員の会」に文部科学省の担当者が出席し、センター試験の出題委員の氏名を公表することを前提に、公表の仕方を今後検討するとの方針を明らかにしたと報道されています。
 従来、センター試験及び各大学の入学試験の出題者が公表されてこなかったのは、入学試験の公正性を確保するためであり、情報公開一般の論理では律せられないものです。センター試験は、国立大学のみならず多くの大学が参加する共通試験として実施されており、かりに出題委員が公表されることになれば、次のような大きな弊害が生ずることが憂慮されます。
 第一に、出題委員がどのように構成されているのかがわかり、一部の有力な予備校など受験産業関係者が出題を予想することが容易となり、その予想情報に接することができるか否かで、受験生の間に不公平が生じかねません。
 第二に、受験産業関係者が出題委員関係者から問題作成に関する情報を聞き出そうと働きかける恐れがあります。出題委員たる者は高度の倫理性を保持し、このような働きかけに応じてはならないことはもちろんですが、そもそも公表によって機密性が担保されない以上、このような危険がまったく生じないと断言することはできません。
 第三に、特定問題の内容に関して特定の出題委員に責任が帰せられる結果を招き、問題作成過程が外部の圧力に晒されかねません。そもそも、学校教育法施行規則第67条は、「学生の入学、……は、教授会の議を経て、学長が、これを定める。」と規定されており、入学等は教育に関わる重要事項として大学の自治に依拠しています。センター試験も、この規定を前提として、各大学との連携のもとに立案・実施されてきたものです。政治家、行政機関、社会団体などが問題内容に直接に介入することは、大学の自治を侵すものであり、厳に戒めなければならないものです。
 以上のような理由から、次の点を要望いたします。
 

1,大学入試センター問題に関する事実経過を明らかにすること。
2,センター試験出題委員の氏名公表の方針を撤回すること。
3,センター試験の公正性を保つべく、外部の不当な介入がないよう、所轄官庁としての責務を果たすこと。

組合資料室へ戻るトップページへ戻る