「2歳なのにまだ『マンマ』しか話しません。育て方が悪いのでしょうか」--。「子ども相談室」(毎週日曜くらしナビ面掲載)には言葉の悩みがたくさん寄せられる。言葉の力を伸ばすにはどうしたらよいのだろうか。【大迫麻記子】
「ロケットがバーンと宇宙に飛び出すぞお!」。画用紙に描いた絵を見せながら元気に話す優介君(6)=仮名=は、1歳半の時まだ言葉が出ず、健診で遅れを指摘された。
発達障害などが専門のとちぎリハビリテーションセンターの小児科医、小黒範子さんによると、子どもの多くは1歳半で2~5単語、2歳で「ママ、来て」などの2語文、3歳で2~3単語を使って簡単な会話ができ、名前を話す--という経過をたどる。2歳までに単語が出ない、3歳で2語文を話さないと遅れも考えられる。
東京都では、06年度の3歳児健診受診者8万9027人のうち、言語については2827人(3・2%)が、経過観察等が必要な「要所見」とされた。
ただ、個人差が大きい。言語聴覚士の中川信子さん(60)は「10カ月で話す早い子もいれば、2歳半でも数語しか話さない子もいる」と話す。また「日本語の50音が発音できるようになる大まかな目安は4歳半くらい」なのだという。
■難聴などの可能性
言葉の発達が遅い場合は、知的な遅れや発達障害、聴覚障害なども考えられる。難聴は早く見つけて適切な指導を受けることが望まれ、新生児聴覚検査も実施されている。
個人差や発達障害、知的障害は見極めが難しく、経過を見ていくしかない。健診で「様子を見ましょう」と言われることがあるのはこのためだ。「様子を見る」と言われても、「自分の育て方のせいではないか」と悩む保護者も少なくない。
中川さんは「子どもも自分も責めないで。無理に教えこもうとしないで」と言う。熱心に言葉を言わせようとすると、子どもは苦痛に感じる。
家庭でできることは何か。中川さんは「言葉は親子が気持ちを共有することで育つ」という。具体的には(1)子どもの発する音や声をまねてみる(2)子どもの関心に合わせて語りかける(3)おいしそうに食べていたら「おいしいね」などと、子どもの気持ちを口に出してあげる--ことを勧める。
■専門家の教室
専門家による言葉の教室も参考になる。西東京市の小児科医、梅村浄(きよら)さん(63)の診療所では、言葉の遅れがある子のため、月2回、2時間の「遊びの会」を開く。2~3歳の5人前後が、リズム遊びや絵本の読み聞かせを楽しむ。言語聴覚士や音楽療法士、保育士らが、体や声をフルに使い、関心を引き付ける。「これ、なあに」と語りかけ、表情やしぐさから言いたいことをつかみ取る。反応が少ない男の子に、メロディーに乗せて「大好きだよー」と歌いながら顔を近づけると、笑みがこぼれた。
優介君も教室に来ていた。3歳の時、広汎性発達障害と診断された。4歳半まで「ママ」「ワンワン」などの単語しか出なかったが、ある日、保育園で「ケーキ、ちょうだい」と2語文を話した。言葉の数は増え、「今では年齢と同じ6歳相当の力がある」と両親は語る。母親は「遊びの会は、言葉が出ようとする芽を的確に見つけ、促してくれた。家庭での接し方の参考にもなった」と話す。
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気になる時はまず、地域の保健センターか保健所へ。アドバイスを受けたり、言葉の発達を支援する各地のサポート機関などを紹介してもらえる。また、親の会としてNPO法人全国ことばを育む親の会(03・3207・7182)、NPO法人ことのはサポート(03・3804・0163ファクス兼用、kotonoha-tsushin@y4.dion.ne.jp)がある。
毎日新聞 2009年1月18日 東京朝刊