県は09年度から、遠隔地の救急患者を短時間で搬送するため、離島だけだった県消防・防災ヘリ「さつま」による救急搬送を、本土内でも始める。ドクターヘリ導入までの“つなぎ”の措置だが、医師会などからは搬送時間短縮への期待が高まる。数年後にドクターヘリ導入を目指すが、活動範囲は本土周辺となる見通し。奄美では引き続き、沖縄県や自衛隊のヘリ頼みとなりそうだ。【福岡静哉】
08年10月。国立指宿病院(指宿市)から鹿児島市内の病院に転院搬送中の救急車は、国道226号で夕方の渋滞につかまった。
車内には急性心筋こうそくの男性患者。高度な手術が必要で、指宿病院では対応できなかった。一度心停止に陥ったが、心臓マッサージなどで回復し、到着後の緊急手術で一命を取り留めた。だが、搬送時間は実に1時間半もかかった。
同病院の田中康博・診療部長は「死亡する恐れもあった。急性の心筋こうそくや脳こうそく、交通事故などは、1分1秒が明暗を分ける」と言う。
◇ ◇
国際医療福祉大(栃木県)の河口洋行准教授の調査(06年)によると、救命救急センターまでの平均搬送時間(離島は除く)で鹿児島県は93分と、北海道、和歌山県に次いで全国ワースト3位だ。センターが鹿児島市立病院1カ所しかないためで、本土内でも2時間以上かかることもある。
県はドクターヘリ導入を目指し08年10月、有識者でつくる「導入検討委員会」を設置。年度内に運営主体の病院やヘリポート場所など具体的な中身を取りまとめる。ただ、準備に最低2、3年はかかるため、検討委では県の防災ヘリの活用を求める意見が相次いだ。
防災ヘリは現在、熊毛地区と三島、十島、甑島での救急搬送を担うが、本土内の救急搬送は、出動基準で明確な規定が無かった。検討委の議論を踏まえ県は、基準の見直しに着手。本土内ならば、搬送時間は片道20分以内。ヘリ離発着場の確保や、地域の医師会との連携なども進める。
また、運用も見直す。これまでは要請側の医師がヘリに同乗したが、今後は、受け入れ側の医師が鹿児島市内から搭乗する方式も導入する。鹿児島市以外では医師不足が深刻化しており、県医師会の上津原甲一・常任理事(救急医療担当)は「離島やへき地で医師が不在になる状況を防げる」と期待する。
◇ ◇
一方、奄美地区は防災ヘリの活動範囲外。自衛隊や沖縄県の協力でしのぐ。奄美大島=海上自衛隊第1航空群(鹿屋市)▽徳之島=陸上自衛隊第1混成団(那覇市)▽沖永良部島・与論島=昼は沖縄県のドクターヘリ、夜間は陸自第1混成団--という具合だ。
県は奄美大島にもドクターヘリを1機導入する意向はあるという。だが、そのためには県立大島病院(奄美市)への救命救急センター設置が前提で、病床・医師数の確保や診療科目の充実など課題が多い。県の負担は、ヘリ1機で年間約8400万円、センター設置で同1億以上となる見込み。県財政は厳しいだけに、早期整備は難しそうだ。
毎日新聞 2009年1月18日 地方版