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苦境の市立病院
- 2009/01/18
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医師不足へ国は対策急げ
地域医療の中核を担う市立病院に、医師不足が深刻な影響を与えている。診療体制の縮小の結果、収入が減るという「負の連鎖」が起き、全国では病院全体を廃止したり、休止したりするケースも出ており、公立病院立て直しの“処方箋(せん)”が急がれる。
計十五市立病院を持つ横浜、川崎、大和など県内十市の二〇〇七年度病院事業決算は、いずれも赤字だった。その累積は六百七十一億円と五年で一・六倍に膨らんだ。
中でも大和市立病院では、同年度に退職によって定員五人の産婦人科医師が三人となり、お産の受け入れ制限を余儀なくされた。救急搬送の受け入れもできない状態で、さらに一人が退職するため、お産の予約受け付けも中止している。神経内科も常勤医がゼロになり、外来を縮小した。診療収入全体が五億円減少、過去最大の十億八千万円の赤字となった。
厚木市立病院や三浦市立病院でも産婦人科休止やお産受け付け中止が響き、同年度赤字となった。
全国も同様で公立病院の七割は赤字。千葉県銚子市や大阪府松原市では昨年、医師不足とそれに伴う経営悪化で市立病院の休止や廃止決定を行う深刻さだ。
もともと市立病院は救急医療や感染症治療、産科、小児科など採算性の難しい診療科を抱え赤字に陥りやすい。民間では敬遠されがちなリスクのある患者も受け入れる。それゆえに地域の安心のよりどころとなっている。県内では今のところ、廃止の動きはないものの、自治体の財政悪化も予想され、油断はできない。
医師不足の原因は、医学部定員を抑制してきた国の政策や、長時間労働など過酷とされる診療科に対し医師の志望が減ったことなどが挙げられる。これに〇四年に導入された新医師臨床研修制度が拍車を掛けた。それまで新人医師は主に出身大学の医局で研修を行っていたが、新制度で研修先の選択肢が広がり、条件のいい病院を選ぶようになった。その影響で大学病院は不足する医師確保のため、公立病院や地方に派遣していた医師を引き揚げたからだ。
国は昨年、「安心と希望の医療確保ビジョン」をまとめ、同制度の見直しと医師養成数増加などの対策に着手。医学部の定員は従来の一・五倍を目指し、臨床研修二年のうち一年間を将来専門とする診療科で研修させ、事実上の働き手とすることを検討している。
これにとどまらず産科や小児科、地方医療などに医師が魅力を感じるような手当の支給、交代勤務制などによる勤務環境の改善などについて、財政上の支援や診療報酬上の措置も必要だろう。
市立病院は言うまでもなく、地域医療の中核、その安心の柱と期待される。それを裏切ってはならない。廃止や休止が広がらないよう国は早急に手を打つべきだ。