“そのノートに書かれた者は死ぬ・・・”という奇抜なアイデアが海外でも話題となり、藤原竜也氏主演で実写映画化、小説、アニメ、ゲーム化もされた人気コミック「DEATH NOTE(デスノート)」(集英社刊)。その主人公、死神の“デスノート”を使い犯罪者を次々と粛清していく天才的高校生“夜神月”を思わせる少年のイラストが集英社文庫の表紙となり、話題を呼んでいます。その作品は、太宰治氏の代表作の1つである自伝的小説「人間失格」の新装版。若者を中心に大人気となり、集英社文庫30周年の夏のフェアが始まる6月末の発売から1ヶ月半で7万5000部、3ヶ月で10万部を越える人気となっています。
仕掛人は、集英社文庫編集部の伊藤亮氏。
神とあがめられながらも孤独な犯罪者となっていく“夜神月”を主人公とした「DEATH NOTE(デスノート)」と破滅的な美しさと孤独を抱えた太宰治氏の世界観の共通性に注目しての今コラボ企画は、若い読者層に共感を呼び、古典的文学作品としては異例の大人気となり、一時は書店に在庫がなくなる勢いでした。
特に若い世代にとっては、“太宰治”も「人間失格」という作品も概略は認知されているものの、試験のために覚えておくべき古典文学であるイメージが強く、プライベートな読書本としてはなかなか手に取り難い存在。表紙に惹かれての“ジャケ買い”からであろうとも古典文学作品に興味を持たせたことの効果は、今後の展開に大きく影響しそうです。
このコラボ企画がライトノベルやコミックに親しんでいる若い読者に古典文学への興味を持ってもらうことを目的にしている以上、表紙と作品との絶妙なイメージの共通性による結びつけは、読者にとっての面白さであり、編集者のセンスと腕の見せどころ。
名作のリバイバル方法としては、昨年から村上春樹氏の「ロング・グッドバイ」(早川書房刊)や光文社の「古典新訳文庫」シリーズなど、時代に即した新訳という方法が注目されてきましたが、作品は変わらず、表紙という作品情報のひとつである装丁を絶妙に変化させることにより、現代の若者と古典文学が寄り添う今回の方法もわかりやすく画期的です。若い読者の古典文学リバイバルは、今回の仕掛け人の伊藤氏のような古典文学にも精通し、若者に人気のコミックやイラストの世界も熟知している、読者との架け橋になる若い編集者のセンスに期待したいところです。
読みたいと買いに行った本ではなく、つい気になって手に取らされてしまった表紙の本・・・という大きな課題を背負いつつ、次にどんな作品を提案してくれるのかも楽しみです。
集英社文庫では、各5万部・9月までの期間限定で、夏目漱石氏の「こころ」、武者小路実篤氏の「友情・初恋」、宮沢賢治「銀河鉄道の夜」の3冊の表紙に、夏の文庫フェアのイメージモデル蒼井優氏をモデルに物語世界をイメージした写真も提案。蒼井氏の透明感のあるさわやかなイメージが夏の読書にぴったりで、こちらも特に男性に人気だったようです。
あまりに知られている3作品なだけに、こちらは蒼井氏のかわいらしさに惹かれて再読という人が多かったのではないでしょうか?(うちの会社でも若干2名、持っているのに購入してましたから。)
とはいえ、期間限定、好きなデザインのブックカバーや表紙というのは、新潮文庫の“Yonda?アロハブックカバー”や角川文庫の“選べる ブックカバー8タイプ”同様、人気のプレゼントアイテム。フェア期間中の複数冊読破の励みとして、こちらもぜひ続けて欲しい提案です。
・・・読者はわがまま・・・ということでしょうか?
(2007.10.05)
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