静寂の中を朗詠の声がゆったりと流れる。先に皇居で行われた恒例の「歌会始の儀」は、新春の趣を一層深くした。
「歌御会始」と呼ばれて古くから行われ、明治時代には一般の優れた歌も披露されはじめた。現在の名称になったのは大正時代の末から。戦後には入選者らの出席が認められた。いまや歌を通して皇室と国民が心を結ぶ場となっている。
今年の題は「生」だった。角膜移植を受け、提供者との二つの生を生きようとする決意。献血時の光景を通して感じた生命をめぐる温かさ。さらには自然の営みへの賛歌など、入選者のさまざまな思いを込めた「生」が披露された。
きょう、その「生」という文字が重く心に響く時がまた巡ってきた。丸十四年を迎えた阪神大震災である。被災地では多彩な催しで六千人を超える犠牲者を追悼し、防災意識を新たにする。
復興したかに見える被災地だが、いまだに心身の傷が癒えぬ人も多い。災害復興住宅では被災者の孤独死も続く。震災後に生を受けた子どもたちが増え、風化させない手だてが問われる。
阪神大震災は大きな衝撃とともに、生命の尊さ、近隣の助け合いや耐震化の重要性などを浮き彫りにした。教訓は、私たちの中にしっかり根付き、生かされているだろうか。あらためて問い直したい。