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「稲川会」移転、住吉会の赤坂に 刺激される“業界秩序”

1月17日14時15分配信 産経新聞


「稲川会」移転、住吉会の赤坂に 刺激される“業界秩序”

指定暴力団稲川会の本部事務所が移転したビル。住民らはビルの前で連日「暴力団は出て行け」などとシュプレヒコールを上げている=15日、東京都港区赤坂(写真:産経新聞)

 3大暴力団の一角、指定暴力団稲川会(角田吉男会長)が今月、本部事務所を東京・六本木から赤坂に移転させた。移転理由は「建物の老朽化」ということのようだが、移転先の目と鼻の先に稲川会以上の構成員数を誇る指定暴力団住吉会(福田晴瞭会長)の本部があるため、地元住民は大きな危険と不安を抱え込む事態になった。「現在、両組織に目立った軋轢(あつれき)はない」(警視庁幹部)とはいえ、過去には“血の歴史”も。地元で抗議活動が活発化する中、「撤退する」との情報も流れており、暴力団の“火薬庫”になりそうな「赤坂」は揺れている。

■フロントが極秘購入

 「六本木の本部事務所は赤坂に移った」

 正月が明けたばかりの今月7日。

 横浜市都筑区にある稲川会の拠点「稲川会館」で開催された新年事始めの席上、稲川会幹部が短く発したこの言葉が、今回の騒動の発端となった。

 稲川会は組織名を現在の名称に改めた昭和47年、東京都港区六本木7のビルに本部事務所を定めた。この経緯を警視庁元幹部はこう説明する。

 「稲川会はもともと静岡・熱海を拠点にしていたが、このころには東京進出も果たし、『首都に本部を』という悲願を持っていた」

 六本木に本部を据えて以来、35年以上使用してきたが、移転させた理由は単純だ。ビルの老朽化が進行し、建物を所有する都内の不動産会社が取り壊しを決めたためだ。同社が昨年夏ごろ、稲川会側に「今年2月末までの退去」を言い渡していた。

 稲川会は新しい事務所を探したが、移転先に関しては箝口(かんこう)令が敷かれた。警視庁捜査員は当時の稲川会内部の雰囲気についてこう解説する。

 「稲川会館に移るという噂もあった。移転先の情報が漏れると、引っ越し前に阻止する住民運動が起こる。情報が漏れることに相当神経質になっていた」

 情報が錯綜(さくそう)する中、稲川会は昨年9月、それまでの本部事務所から約500メートル離れた港区赤坂6の地上3階地下1階建てビルを極秘裏に入手した。売買価格は土地・建物合わせて計約3億2000万円。

 警視庁は各警察署の暴力団担当係に情報収集を指示したが、“引っ越し先”の早期把握は難しかった。その理由は、直接の購入者が神奈川県の不動産会社X社だったからだ。しかし、X社は本社住所が稲川会館の所在地であるうえ、代表取締役に稲川会幹部が就任しており、稲川会と関係が深い「フロント企業」であることが判明した。

 警視庁は新年事始めでの移転宣言をもって本部事務所は赤坂に移ったとの見方をとっているが、現段階で組員の出入りは確認されていないという。

 一方で「赤坂から撤退する」との情報も流出しており、警視庁で実態把握を進めている。

■250メートル先には住吉会本部

 稲川会は、故稲川角二初代会長が戦後まもなく、静岡県熱海市で立ち上げた組織が始まりだ。

 以降、東京へと勢力を広げ、現在は東日本を中心に拠点を持ち、警察当局が認定する構成員は約4800人。山口組(約2万3000人)、住吉会(約6100人)に次ぎ、全国で3番目の陣容を保っている。

 そんな組織が移転してくる。それも、わずか約250メートル北東の同じ赤坂6には住吉会の本部事務所があるところに−。寝耳に水の地元住民に大きな衝撃が走った。

 「大きな暴力団の事務所が2つあるというだけで恐ろしい。家の窓を防弾ガラスにしようか、真剣に妻と相談した」

 近くに住む男性会社員(34)はこう話す。

 地元住民らはさっそく動いた。13日から本部事務所前で抗議集会を開き、撤退を求めるシュプレヒコールを上げた。警視庁と地元住民は21日に暴力団排除協議会を立ち上げる予定で、集会はそれまで毎日続けられる予定だ。

 ただ、今回の移転が抗争に直結するとの見方は薄いようだ。警視庁幹部の分析。

 「現在、稲川会と住吉会に目立った軋轢はない。いますぐカチコミ(組事務所襲撃)があるとは考えにくい」

 “業界”が一部を除き「平和路線」に傾いていることも背景にある。

 平成4年の暴力団対策法施行などで組員としての活動が制限されたこともあるが、その決定打となったのが16年11月の最高裁の判断だ。

 山口組の下部組織の組員に射殺された京都府警の男性警部=当時(44)=の遺族が、山口組の渡辺芳則組長(当時)に損害賠償を求めた訴訟で、最高裁は末端組員に対する渡辺組長の使用者責任を認めた。

 「今は大規模な抗争は起こりえない。チンピラのケンカでトップの責任が問われる時代になったからだ」

 ある関東地方の暴力団元組員もこう語るのだ。

■住人ら訴訟の動きも

 とはいえ、だからといって楽観できるというわけでもない。

 過去には両暴力団の下部組織の間で抗争に発展した例もある。

 記憶に新しいところでは、15年1月、前橋市のスナックで、住吉会系組幹部2人が店内などで拳銃を発砲し、一般客ら3人を含む4人を殺害、稲川会系元組長ら2人に重傷を負わせる事件が発生した。東京都葛飾区の葬儀会場で13年8月、稲川会系のヒットマンが住吉会系組幹部を射殺したことへの報復だったとみられる。

 警視庁によると、稲川会が赤坂に本部事務所を起き続ける場合、地元住民らは今後、事務所使用の差し止めを求める仮処分の申し立てなどを視野に排除活動を展開していく見通しだ。

 こうした仮処分の申し立てはこれまでに静岡市、和歌山市などで起こされ、いずれも住民側の請求が認められた。これを受け、事務所の使用差し止めや賃貸契約の解除を求める訴訟が起こされ、暴力団事務所の撤退につながっている。

 鹿児島市では19年10月、暴力団排除に取り組んでいた住民が男に刺される事件が発生。住民らが犯行を指示した組長が所属する暴力団の事務所について使用差し止めを求める仮処分を申請し、認められた。

 福岡県久留米市では住民が昨年8月、九州北部を地盤とする指定暴力団道仁会の本部事務所の使用差し止めを求め、福岡地裁に仮処分を申請した。指定暴力団の本部を対象とした仮処分申請は全国初で、住民は居住地の半径約500メートル以内に組事務所があるため、「危険が身近にある生活を強いられた」と訴えている。

 道仁会をめぐっては、18年ごろから、抗争とみられる殺人事件や発砲事件が続発。19年11月には佐賀県武雄市で病院に入院していた男性が暴力団関係者と間違われ、道仁会系組員に殺害される事件も起きている。

 「こうした明らかな抗争がない場合でも、憲法が保障する平穏な生活を営む権利である『人格権』を武器に暴力団と戦える。決して暴力団に屈しないことが大切。怖いという感覚を持つかもしれないが、住民でスクラムを組むことで排除することはできる」

 警視庁幹部はこう力説している。

 “迎える”側の住吉会は稲川会の移転について、現時点で沈黙している。

 「地元住民による排除運動が自分たちに飛び火することを警戒している」(警視庁幹部)からだろうか。

■山口組絡みバランスに異変の恐れも

 暴力団の世界は、山口組による寡占化が進んで久しい。山口組は広島県と沖縄県を除く45都道府県に勢力を広げ、いまや指定暴力団の組員の2人に1人は山口組という状況だ。

 かつては「東京には菱の代紋(山口組の家紋)を掲げない」という不文律があったが、17年7月に6代目として司忍組長=本名・篠田建市、銃刀法違反罪で服役中=が就任すると、本格的に関東への触手を伸ばした。

 以前は血で血を洗う抗争で勢力を拡大した山口組だが、近年は組長同士が兄弟の盃(さかずき)を交わすことで相手組織を取り込む「盃外交」を展開しているという。

 17年9月には、関東地方の暴力団の親睦団体「関東二十日会」から、銀座など都内の繁華街に縄張りを持つ国粋会が脱会。トップ同士が兄弟分の盃を交わす形で、国粋会が山口組の傘下に入った。

 稲川会も住吉会も加盟する関東二十日会は昭和47年に結成され、長く山口組の東京進出を防ぐ“牙城”として機能してきた。ただ、その機能は著しく低下しているという。警視庁幹部は現状をこう分析するのだ。

 「都内ではいざというときの戦闘力を背景に、山口組がどんどん勢力を伸ばしている」

 山口組では昨年10月、都内で勢力を持っていた後藤組(静岡県)の後藤忠政組長を除籍処分としており、波乱要因を抱えている。こうした山口組の存在も火種の一つになる可能性があり、警視庁は今後も「赤坂」に対する最大限の警戒を続けていく。

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最終更新:1月17日14時15分

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