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ピーピングしのすけのふしあなから世間:ビッグイシューと弟子=立川志の輔 /東京

 人は興味のないことをやっても身につかないし病気になるだけ、なにはともあれ、自分が好きな事をみつけるのが大事、とはよく言われることですが、成人の日の毎日新聞「余録」で知った雑誌「ザ・ビッグイシュー日本版」を弟子に頼んで手に入れたときのことです。

 この雑誌はホームレスの仕事をつくり、自立を支援する目的で作られていて、もともとは英国ロンドンで始まった事業だそうです。

 1冊300円で駅前や路上で対面販売されている40ページほどの小冊子には、さまざまなジャンルの読み物があり、飽きないのですが、中でも、ホームレス体験者がお悩みに答える「ホームレス人生相談」は、実に優しくあったかい答えで、ついほほえんでしまいます。

 経験者は語る、は強い。

 パルコ公演の楽屋へ、雑誌を手に現れた弟子は喜々として話し出しました。

「師匠、買ってまいりました。渋谷の宮益坂交差点でみつけました。この人と話をしたのですが、この本を販売して1年半ほどになるそうです。ホームレスになった原因は、うつ病で失職してしまったことだそうでして、今はリハビリも兼ねて、この雑誌の販売をしているそうです。あのー、とてもホームレスというイメージの服装ではございません、わりと普通の服装でございまして、今はネットカフェで寝泊まりしてるんだそうです。1日だいたい25冊から30冊程度の売り上げだそうですが、この雑誌の売り上げだけで生活をしているそうです。ネットカフェ利用代金とか食費とか次の日用の雑誌の仕入れ費とか晩酌のお酒などだそうです。この人の話では、この雑誌の販売は向き不向きがありまして、だいたいの人が3日ほどでやめていくそうです。

 最初の販売者登録時に10冊ただでもらえるのですが、それも売り切らずにやめていく人もいるそうです。それでも、この方は……」

 よほど、その人と話せたことが嬉(うれ)しかったのか、しゃべり続ける弟子。

 私は、雑誌が手に入った嬉しさ以上に、息せき切ってしゃべる弟子の方が面白くって。

 意外と世間との接点が少なく、落語のことばかり考える修業時代に、社会の現状を目の当たりにし、私に報告したい熱い思いが彼を饒舌(じょうぜつ)にしたのでしょう。

 落語もこの勢いでしゃべれば、もっと面白くなるのに。

 そういえば、私も20年以上前、朝のニュース番組のリポーターをしたおかげで、社会の現場に触れ、どんなに落語に役立ったことか……。

毎日新聞 2009年1月16日 地方版

 
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