yosukeによる
2008年04月18日 9時28分の掲載
人生のアトラクタには死も含まれる部門より。
人生のアトラクタには死も含まれる部門より。
人生がカオスなのでAC 曰く、
asahi.comの記事によると、米国の気象学者E.ローレンツ氏が4/16にがんのため逝去されたそうだ。ローレンツ氏は1963年の論文「Deterministic Nonperiodic Flow」において、非線形的な気象モデルにおいてわずかな初期値の違いが結果に大きな影響を与えること、非周期的な変動をすることを示し、「バタフライ効果」(「ジュラシックパーク」において科学者役のセリフである「北京で蝶が羽ばたけば、ニューヨークの天気が変わるというやつだ」という説明を記憶している方もいるだろう)、「カオス」の発見者として名高い方であった。その後、カオス理論は気象学にとどまらず、非線形的な性質をもつ自然、社会などの多方面の科学に応用されるようになった。新たな科学分野の創造に寄与した氏に敬意を表して、カオスに語り合おう。
#なお、国内での認知は低いが、上田睆亮 元京都大教授 前はこだて未来大教授がローレンツの発表に先立つ1961年に電気回路のシミュレーションにおいてカオス現象を発見していたことは追記しておくべきだろう。
カオスの発見を逃した人 (スコア: 5, 参考になる)
その頃シミュレーションをやってた人にとって、初期状態の微細な変化が大きな計算結果の違いを生むことは、けっこう知られていたようで、先日、お会いしたある先生もそのようなことをおっしゃっていました。
ただ、シミュレーションをやってない人にとっての物理法則は、厳密に決定論的なものであり、「カオス」のようなことをしゃべると反発され、相手にされないというような状況があったらしいです。
カオス理論が脚光をあびるのは、もう少し後の 1980年代後半くらいからだったでしょうか。その頃にはシミュレーション=決定論ではないことが、経験的にも知られるようになったということですね。
気象予報に使われているシミュレーションでも、初期値である観測値に誤差が入ることは逃れられないので、初期値にゆらぎを加えて何回か計算し、その結果の平均・偏差を利用するようにしているとか。
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Re:カオスの発見を逃した人 (スコア: 3, すばらしい洞察)
>「カオス」のようなことをしゃべると反発され、相手にされないというような状況があったらしいです。
カオスの面白いところは、厳密に決定論的なダイナミクス(=物理法則)から確率的に振る舞っているとしか思えないような性質が現れることです(だからコンピューターの乱数生成に使われたりする)。当時の知的水準では、シミュレーションに現れるカオティックな現象なんて「シミュレーターにノイズが載ってるせいだろう」ぐらいにしか思われていなくて、それが決定論的なダイナミクスの持つ本質的な性質なのだと理解されることはなかったということであるように思えます。
ただ、そこで、「その頃シミュレーションをやってた人」の中で、「俺のシミュレーションは完璧だ。だからこれはノイズの効果なんかじゃ絶対ない。決定論的なダイナミクスとして理解できないとすれば、それはおまえら理論家の頭が遅れてるからだ!」と強弁できる先見的な人が現れていれば、いまごろ世界的な学者になれていたのでしょう。ただ、そこまで言い切る自信が「シミュレーションをやってた人」側にも実はなかったということではないでしょうか。
「初期状態の微細な変化が大きな計算結果の違いを生むこと」なんて、実際にはパチンコ屋に入り浸ってるダメ親父だって知ってるありふれた話なのです。では、パチンコ屋の親父と世界のローレンツを分けてしまったものは何かと言えば、当り前の中に新しさを見つけることができた先駆的素養の差ということができるでしょう。科学の重要な発見の多くは、実は目の前にぶら下がっているのではないでしょうか。目の前にぶら下がっているのに、多くの学者にはそれが全く見えないのです。気づくことができた人が一流であるということなのですが、そこに至るまでにはやはり多くの努力が必要だったはずで、それはやはり称賛に値するものだと思います。
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カオスって役に立つの? (スコア: 2, 興味深い)
なぜ役に立つのかが、よくわからないです。
カオスは、「~はランダムで予測がつかない」とか「初期値がほんのすこしでも違うと
結果が大きく違ってしまう」とか、否定的な結論ばかりを導き出しているような気がして、
学問的にはともかく、応用上は意味がなさそうな気がします。
なぜ、「予測がつかない」などの結論を導く理論が、応用上、役に立つのか、
教えてください、エロい人!
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Re:カオスって役に立つの? (スコア: 5, 参考になる)
まず、勘違いされやすいことですが、「カオス」とされる状態は
「単なる無秩序」(ランダム)ではない(カオスは「秩序のある“無秩序”」)ことに注意してください。
例えば、気象現象が「単なる無秩序」(ランダム)であれば気象予測は不可能です。
数値予測するより下駄で占った方がまし(費用対効果の面で)です。
実際には物理法則に従うので決定論的に(=「秩序がある」)その時間発展を予測できます。
しかし、「カオス」であるために予測が難しい(=「秩序ある無秩序」)のが現実です。
#(実はローレンツ系が「カオス」かどうかは議論中、って10年前に聞いた希ガス)
天気予報などの“予測”とされる分野では、その予測がどれだけ確からしいか、という情報もとても重要です。
事後に予測データと観測データを比較して「○○%当った」と評価することもできますが、
特に天気予報では防災のため事前に確からしさを知る必要があります。
例えば、「観測データの精度がこれこれなので、X日後の予報の精度はこれくらいだろう」という評価が出来ます。
逆に「予報の精度をこれくらいにするには、観測データはこれくらい必要」と設計に反映することもできます。
この間を埋めるのが“カオス”(初期値に対する物理現象の鋭敏性)の思想です。
「予測できない」のは否定的なものではなく、予測の確からしさの評価に必要なもの、と思ってください。
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天気予報とカオス (スコア: 4, 参考になる)
例えば気象庁が発表する天気予報 [jma.go.jp](この例では東京)の場合,予報の確度を A,B,C の3段階で発表しています。 イメージとしては, 競{馬|艇|輪}予想紙によくある「鉄板(A), 波乱含み(B), 大荒れ(C)」のマークが天気予報にも付いているとお考えください。
予報の確度はアンサンブル予報 [jma.go.jp]によって決められますが,この手法はカオス理論による予報の評価にほかなりません。
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Re:カオスって役に立つの? (スコア: 5, 参考になる)
多少マジレスすると、キチンとした初期値さえ与えれば遠い未来のことまで予測できるんだという素朴な決定論が、「複雑系」において成り立たないことがカオス理論で示されました。
逆に、「○○という計算モデルで初期値の確度が××なら、どのくらい先のことがどの程度予測できるのか」という問題が出てきて、そこから得られた知見は、色々なシミュレーションで使われていると思いますが。(使われてない?) まぁ、累積誤差の問題もあるので難しいんですけど。
# 「これ以上時間を発展させた計算はもはや意味がない」と言えるのは、応用上、役に立ちます。
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ラプラスの悪魔 (スコア: 2, 参考になる)
「ラプラスの悪魔」と呼ばれるやつですね。
この思想が流行していた19世紀末は「本質的に物理学が探求すべきことはもう残っていない」と多くの科学者が考えていました。
そのラプラスの悪魔を打ち破ったのは不確定性原理を仮定して構築された量子力学でした。量子力学で予測可能なものは波動関数であり,波動関数は確率に対応する(Bornの確率解釈)ため,確率的にしか観測することはできず,ラプラスの悪魔は20世紀初頭に打ち破られました。
カオスが発見されるのはもう少し後のことかと思われます。
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Re:ラプラスの悪魔 (スコア: 3, 参考になる)
量子力学は方程式自体に確率(波動関数)が入ってますが、
もとの常微分方程式(Lorenz系は偏微分方程式)に確率の概念が入ってないのに、
結果は確率“的”になる、ってのがブレークポイント。
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Re:ラプラスの悪魔 (スコア: 2, 興味深い)
兆候はいくつか報告されているようですが.
参考:
中村勝弘のホームページ [osaka-cu.ac.jp]
Einstein’s Unknown Insight and the Problem of Quantizing Chaos [yale.edu]
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Re:ラプラスの悪魔 (スコア: 2, すばらしい洞察)
非決定的と確率的は違う概念です.
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発見のきっかけ (スコア: 1, 興味深い)
ある日食事前にプログラムを走らせようと(#),いつもより少ない桁数で
パラメータを与えて実行を開始しました.食事から戻って来て,結果を
確認したところ,いつもの桁数のパラメータのものと大きく結果が
異なっていたそうです.そこから,思索を重ねてカオスと言う考えに
至ったという話です.(うろ覚え)
#当時の計算機はとても遅かった.
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Re:発見のきっかけ(余計なもの-1) (スコア: 2, おもしろおかしい)
民明書房の「図解 チョーわかる科学大発見の瞬間」に載ってました。
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うんちく (スコア: 1)
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Re:参考にならない (スコア: 2, 興味深い)
それじゃフラクタル繋がりで, フラクタル図形として紹介されるマンデルブロ図形 [titech-coop.or.jp]ですが, これも境界部の挙動がカオス的な例です.
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