「仮にチャンスが与えられるなら、前とは違った形で行う事柄もある」「あなた方は私が下した苦しい決断のいくつかに同意していないかもしれない」
20日に退任するブッシュ米大統領は、最後のテレビ演説(15日)で弱気とも映る発言を繰り返した。
主にイラク戦争への反省だろう。3日前の「お別れ会見」では、イラク戦争などにまつわる過ちを認めつつ、最終評価は歴史に委ねられると結論を先送りするのが精いっぱいだった。
超大国に8年も君臨した指導者の、何ともさびしい去り際だ。8年前、クリントン大統領(当時)は「お別れ演説」で「米国経済は記録を破り続けている」と好景気を誇ったものだ。
クリントン氏への評価は分かれるにせよ、長い戦争もなく繁栄を保ったクリントン政権に対し、ブッシュ政権はなお続く戦争と深刻な金融危機を次期政権に手渡そうとしている。
ブッシュ大統領の不支持率は75%を超え、米国民の4人のうち3人が「不支持」組というのもむべなるかなだ。01年の9・11テロ直後、90%を超えた大統領支持率は見る影もない。確かに9・11後、「米本土のテロ」はなくても歴史の評価は甘くはあるまい。
この不人気は、米国らしからぬ「狭量さ」ゆえではなかったか。9・11テロ後、ブッシュ政権は「米国の側につくか、テロリストの側か」と世界に踏み絵を突きつけ、単独行動主義と選別的同盟を推し進めた。おごりと言うしかない。
それでも、9・11テロの実行組織「アルカイダ」などを対象としたアフガニスタン攻撃までは、まだ国際社会の支持は得られた。しかし、テロ組織に大量破壊兵器が渡っては困る、との強引な理屈でイラク戦争へ傾いてから「テロとの戦争」は大きくねじれた。
イラクの大量破壊兵器、9・11テロへのフセイン政権の関与--。ネオコン(新保守主義派)などが吹聴した脅威は幻だった。「中東民主化」も言いっ放しで終わった。アフガン情勢は悪化の一途をたどり、イラクの前途も波乱含みだ。
ブッシュ氏のお別れ演説に合わせたように、英国のミリバンド外相は「テロとの戦争」の概念に疑義を呈した。過激主義は多様なのに統一された敵がいるような印象を与えるというのだ。最大の同盟国もブッシュ政権の最後に、明確な一線を画した格好だ。
他方、北朝鮮の脅威は増大した。イラクに陸上自衛隊まで送って米国を側面支援した日本は、北朝鮮の核実験に直面した。日本こそイラク戦争で最大の打撃を受けた国の一つという見方もある。
米国につき従うだけでは日本の利益は保てない。そんな当たり前のことが身にしみた8年ではなかったか。日本も謙虚に8年を総括しなければならない。
毎日新聞 2009年1月17日 0時04分