政府の財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が定額給付金の撤回を求めた。迷走に迷走を重ねた給付金について、国民の多くが疑問を感じている。あらためて税金の使途を考え直してはどうか。
財政審の西室泰三会長は会見で「国民のためや経済活性化になることがあったら(二兆円を定額給付金以外に)振り向けることを考えたらどうか、という考えが大多数を占めた」と述べ、見直しを求めた。財政審がこうした提言をするのは、二重三重の意味で極めて異例である。
そもそも財政審は昨年暮れ、政府に提出した建議書で定額給付金について「国際的な経済・金融の大混乱時における緊急避難的な措置」と記し、容認している。それを今回、自ら覆した形になる。
しかも定額給付金を盛り込んだ二〇〇八年度第二次補正予算案の国会審議が始まり、与野党で論戦が繰り広げられている段階で、政府側に立ちがちの財政審が国民の意思をくみ、財務相に注文をつけたのである。
財政審の議論には、財務省の意向が色濃く反映される。あえての見直し論は、増税を目指す財務省が消費税引き上げ論議が争点になるのを避けるために、再び給付金論議を盛り上げ「めくらまし」にする意図も推測される。
消費税の扱いは与党内で焦点に急浮上している。野党も攻勢材料にするだろう。そうした背景を考えれば財政審の意見は必ずしも額面通りに受け取れない面もある。
しかし、各種世論調査をみると、定額給付金が国民に不評であるのもたしかだ。肝心の麻生太郎首相自身が説明を二転三転させて、一体、なんのための給付金なのか、政策の意図があいまいになってしまったこともある。
「派遣切り」に象徴されるように雇用問題が深刻化する中で、貴重な二兆円の税金をどう使うべきなのか。国民が望んでいるのも実のある税金の使い方だ。ここで、腰を入れ直して考え直してみる価値はある。
民主党は二兆円を小中学校の耐震化や介護労働者への報酬引き上げ、雇用対策、太陽光パネルの設置補助などに使ってはどうか、と提案している。有効な使途に党派の別はないはずだ。
財務省の深謀遠慮の有無はともかく、二兆円もの税金を使う政策をめぐって、財政審までが議論を蒸し返すのは、やはり異常な事態である。政府はメンツにこだわらず、撤回を決断するときだ。
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