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社説:阪神大震災14年 減災社会の実現に経験生かせ

 「災害の1日前に戻れるとしたら、あなたは何をしますか」。内閣府がこんなテーマで災害に遭った人たちから体験談を集めた。「家族で避難先を話し合う」などの声から教訓を学んでもらう狙いだが、身につまされる反省の数々を読んでいると、「自分だけは災害に遭わない」と思い込み、油断することの恐ろしさがよく分かる。

 阪神大震災から14年がたった。神戸市の人口は震災前を上回ったが、火災被害が大きかった同市長田区は約8割にとどまっている。再開発ビルが建ち並ぶ繁華街もあれば、かつてのにぎわいが戻らない商店街もある。このような地域差を残した「まだら模様」では、真の復興とはいえまい。

 人々の健康や暮らしという点でも格差がある。その一つの象徴が震災障害者の存在である。6400人以上が亡くなった阪神大震災では重傷者も1万人を超した。今も障害に苦しむ人は多い。住まいや家族、仕事を一度に失い、さらに心身に障害を負った被災者の生活が困難を極めることは容易に想像が付くが、包括的な追跡調査もなく、その実態は明らかではない。

 毎日新聞がアンケートした震災障害者33人のうち4割が自殺を考えたことがあるという。十分なケアがなく、取り残され感を募らせた結果だ。識者は公的支援の必要性を指摘している。悩みを語り合える場も必要だ。行政は実態調査を早急に実施し、専用の相談窓口を置くべきだ。

 交通事故や労働災害と違い、自然災害による障害は原因者による補償がない。災害障害見舞金も、両腕や両脚を失うなど極めて重度の障害に限られている。被害者に何の落ち度もないという点で共通する犯罪被害給付制度ではより軽度な障害も対象にしている。給付のハードルの高さを疑問視する専門家もいる。

 震災後の世論の高まりで、自然災害の被災者への支援に道を開く被災者生活再建支援法を成立させた前例もある。既成の発想にとらわれず、あらゆる知恵を絞ってもらいたい。

 この1年、ミャンマーの水害や中国の四川大地震など海外で大規模な災害が続いた。政治的な問題などから外国の援助受け入れが遅れたとされるのは残念だが、災害に苦しむ被災者に国境はない。国際的支援はためらわずに進めたい。心のケアができる専門家が不足しているという。日本の経験を生かせる分野であり、支援を続けるべきだ。

 私たちは残念ながら、震災の「1日前」に時計を巻き戻すことはできない。しかし、14年間の経験に学び、いかに被害を減らし、被災者の生活再建をどのように図るのかを考え続けることはできる。それが減災社会づくりにつながり、将来予想される首都直下地震や東南海・南海地震など巨大災害への備えになるはずだ。

毎日新聞 2009年1月17日 東京朝刊

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