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社説

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消費税の扱い―付則に明記し決意示せ

 近く閣議決定する税制改正関連法案の付則に、消費増税の開始時期を「2011年度」と明記するかどうか。自民党内の対立が激しくなっている。麻生首相が明記を指示したのに対して、中川秀直元幹事長らを中心に反対論が噴出している。

 09年度から基礎年金の国庫負担を引き上げるが、財源が手当てできず、特別会計の「埋蔵金」でしのぐことにした。高齢化が進めば医療・介護の費用もかさむ。こうした福祉を支える財源が足りないのは明らかだ。

 当面は財政面からも不況対策に全力をあげるべきだが、不況から脱出した暁には、福祉を安定させるために、その費用を国民が増税で広く負担することは避けて通れない。

 政府は昨年末に閣議決定した税制の「中期プログラム」に、「消費税を含む税制抜本改革を11年度より実施できるよう、必要な法制上の措置をあらかじめ講じ、10年代半ばまでに段階的に行う」と明記した。

 消費税以外にも、高所得者を中心とした所得税の強化、相続税などの強化や、法人税の課税ベースを広げる代わりに税率を下げる、といった改革の方向が幅広く盛り込まれた。

 首相の指示は、これらの要点を法案の付則に明記しようとするものだ。法律が成立すれば、閣議決定よりはるかに強い拘束力をもつ。

 今年は必ず総選挙がある。法制化により、増税は自動的に与党の選挙公約になる。選挙で増税を主張したら負けると懸念して、与党はこれまでずっと増税論から逃げてきた。そこへあえて踏み込むというのならば、政治の決断として高く評価したい。

 他方、自民党内の反対論には「総選挙を戦えない」というのは論外として、耳を傾けるべきものもある。

 まず、目標の11年度に景気が回復しているかどうか。「全治3年」がうたい文句の麻生政権だが、増税を実施するかどうかは、11年度へいたる景気を慎重に見きわめながら判断しなければならない。

 また、増税で財源を確保できるからといって、歳出削減や行政改革の手をゆるめることがあってはならない。ムダをなくし、政府自身が身を削ることを徹底させないかぎり、増税に対し国民の支持を得ることはできない。そう覚悟を定めることが不可欠だ。

 その点で、定額給付金はネックになる。貴重な財源をバラマキに使うなと大多数の国民が反対しており、政府の財政制度等審議会までもが、2兆円の使い道を見直すよう求めた。取り下げなければ道は開けないだろう。

 増税は福祉のために行うものだ。では、増税によって福祉をどのように整備し維持するのか。肝心のその全体像も、まだ示されてはいない。

大地震の備え―「事前復興」で街づくりを

 崩れ落ちた家々を炎がなめるように焼き尽くす。14年前に起きた阪神大震災の被災地の映像だ。東京都葛飾区、堀切中央町会長の佐股敏郎さんは息をのんで見入った。

 佐股さんが暮らす堀切地区は、荒川沿いに木造住宅が密集する。ひとたび大地震が発生すると、あちこちから火の手があがる恐れが強い。

 映像は、首都直下地震を想定した訓練のなかで上映された。復興後の街づくりを被災前に住民主体で考えようと、首都大学東京などの研究者らが進める「事前復興」の試みだ。

 地震は避けられないが被害は抑えられる。被災状況をイメージして、復興のプロセスを先取りすれば災害に強い街づくりができる。それが事前復興の考え方だ。東京都の呼びかけで03年、そんな考えに沿った訓練が始まった。

 東京の都心部では、関東大震災と太平洋戦争による戦災の後、区画整理事業が進められた。一方で、その周辺部には焼け出された人たちが移り住み、山手線の外側にドーナツ状に木造住宅の密集地が広がる。

 最も切迫しているという東京湾北部を震源とする地震では、木造密集地で同時に火災が多発し、65万棟が焼失すると想定されている。葛飾区は東京23区で焼失率が一番高く、焼失家屋は全体の34%、3万4千棟とされている。

 堀切地区の訓練では、被害想定にもとづいて火災の発生をシミュレーションした。避難経路を確認し、仮設住宅などを建てる予定地を選んだ。行政側は復興の青写真を描き、住民の意見を聴いて修正を加えた。この2カ月に5回の訓練を重ねた。

 73歳の佐股さんは「住み慣れた街が燃えるのはショックだったが、その現実を受け止め、街づくりに取り組む覚悟ができた」と話す。

 そうした訓練は都内の25地域でおこなわれた。そこから見えてきた地域ごとの課題を踏まえ、復興マニュアルが都内の15区でつくられている。

 復興の道筋を描くことを通じて、被災したつもりで、安全な街づくりをいますぐにも進めることが重要だ。

 家屋の延焼を防ぐため、自治体は防火帯として公園や緑地の整備を進める。家屋の耐震補強を進めるのはもちろん、住民は自主防災組織を立ち上げて消火訓練を重ねておきたい。それは地域のきずなを深め、コミュニティーを守ることにもつながる。

 日本列島は地震の活動期に入ったといわれ、いつ、どこで地震が起きてもおかしくない。

 阪神大震災では、被災者が避難所に身を寄せているうちに行政主導で区画整理などが始まった。街づくりに住民の意見が十分に反映されたとは言えなかった。その教訓から始まった事前復興の試みを各地に広げていきたい。

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