三菱重工業が、国産の主力ロケットH2Aによる多目的衛星の打ち上げ業務を韓国から受注したと発表した。国産ロケットによる海外の衛星打ち上げ受注は初めてである。
打ち上げられるのは韓国航空宇宙研究院が開発している「アリラン3号」で、昨年十月末に打ち上げ事業に関する優先交渉権を獲得、その後詰めの協議を行っていた。衛星は宇宙航空研究開発機構の種子島宇宙センターから二〇一一年度中に打ち上げられる予定で、地理情報解析に必要な高解像度画像の取得や環境観測などを行う。
日本のロケット開発は宇宙開発事業団とその後身である宇宙機構を中心に進められてきた。官需頼みから脱し、産業として自立することを目指して〇七年秋、打ち上げ業務を民営化し三菱重工に移管した。海外の衛星打ち上げ受注は関係者の悲願であり、民間事業として一歩を踏み出したといえる。無事成功させてもらいたい。
しかし、衛星ビジネスを軌道に乗せる上での課題は多い。まず、打ち上げ需要の少なさが挙げられる。世界の商業衛星打ち上げ需要は多くて年間三十機程度で、十数機という年もある。しかも当面は需要増を期待し難いといわれている。
少ないパイを奪い合うライバルは多い。米国や欧州、ロシアに加え、中国やインドも衛星ビジネスに意欲をみせる。特にインドは費用の安さが強みだ。昨年秋の初の無人月探査機打ち上げでかかった費用はインド紙によれば八千万ドル弱で、日本が〇七年に打ち上げた「かぐや」の三分の一以下だ。探査機の内容などが違い単純には比較できないが、コスト競争力強化が必要なことは確かだろう。
日本の場合、発射場は種子島宇宙センターしかない。周辺の漁業とのかね合いで打ち上げ時期は今のところ夏季と冬季に限られ、顧客の要望に沿えない恐れがある。衛星打ち上げに有利な赤道付近から離れていることもマイナス要因だ。
それでも、日本は工業技術力で定評がある。一代前のH2では打ち上げ失敗が続いたとはいえ、工業製品一般を通じて培った信頼は強みになろう。コストについても日本はH2からH2Aへの移行に際し、製造費用を半分以下に削った。一段のコスト要求に応えることは努力次第で可能ではないか。
数少ない打ち上げを、着実に成功させていくことだ。実績とともに信頼も高まり、衛星ビジネスの発展につながろう。
東京地検特捜部は、海外から無届けで計七千万円の裏金を持ち込んだとして、準大手ゼネコン西松建設の海外事業担当だった元副社長藤巻恵次容疑者ら四人を外為法違反容疑で逮捕し、関係先を家宅捜索した。
東南アジアで受注した事業などに絡んで捻出(ねんしゅつ)した裏金は約十億円に上るという。藤巻容疑者は任意捜査の段階で、裏金づくりなどの指示を認めており、組織ぐるみの犯行といえよう。
焦点は巨額の裏金の使い道だ。一連の捜査の端緒は、今回再逮捕された元海外事業部副事業部長高原和彦容疑者による内部告発だった。高原容疑者はタイのバンコク都庁発注工事に絡み、受注のために現地当局者に対する贈賄工作をしていたことを明らかにしている。
その後の捜査の過程で、西松建設が献金先を指定した上で、同社OBを代表とする政治団体から与野党首脳らに献金していたことが判明した。こうした献金は政治団体を隠れみのにした事実上の企業献金として、脱法性が強いと指摘されている。藤巻容疑者はこの脱法的な献金にかかわったとみられる管理本部長を二〇〇三年六月から約三年間務めていた。
さらに、西松建設は青森県むつ市で計画中の使用済み核燃料中間貯蔵施設の建設候補地周辺を、事実上のダミー会社に買収させていたことも発覚した。裏金が政治献金や工事発注の工作資金に使われていたのではないかという疑惑は増すばかりだ。検察当局は使途の究明にメスを加えなければならない。
一九九三年に起きたゼネコン汚職で、西松建設は当時の副社長が贈賄罪で有罪となった。企業として不正排除への取り組みが不十分だったと言わざるを得まい。体質改善を促すためにも、事件の全容解明が急がれる。
(2009年1月16日掲載)