09年春闘が本格的に始まった。未曽有の不況下で行われる労使交渉は、例年以上に国民の関心が高い。賃金に加え雇用維持が労使交渉の緊急課題だ。しかも、非正規社員の解雇が相次ぐ中で、正社員中心の従来型の労使関係から抜け落ちてきた新しい問題に向き合う春闘となる。
15日に行われた日本経団連と連合の首脳懇談会では、労働側が「内需拡大のためにも賃上げが必要」と8年ぶりにベースアップを要求した。経営側は金融・経済危機を理由に「賃上げは困難」と指摘、主張は平行線をたどった。
不況下の労使交渉では、過去にもあったが、ワークシェアリングが浮上する。1人当たりの労働時間を短縮して(時短)、解雇者を出さないために仕事を分かち合う仕組みだ。欧州では93年に自動車大手の独・フォルクスワーゲンが導入したケースやオランダの政労使による「ワッセナー合意」がよく知られている。
日本でも石油危機以降70年代末、円高不況の80年代末、90年代の3回、ワークシェアリングの導入が議論され、02年には政労使が基本合意をした。しかし、実際に導入した企業はほとんどなく、その後の景気回復で立ち消えになった。
日本でなぜ、ワークシェアリングが根付かないのか。これにはいくつかの理由がある。導入するには、労働時間の管理が必要だが、サービス残業などが一般的に行われており、時間管理ができていない。また欧州のように同一労働・同一賃金となっておらず、年功や経験によって、さらに正社員か非正社員かによっても、賃金水準が違う。これだと、時短分の賃金の計算が難しく、労務管理が複雑になり仕事の分かち合いがしにくい。賃下げに正社員の労組が難色を示してきたという経緯もある。
ワークシェアリングには、不況下で緊急避難的に行う雇用維持型▽より多くの働く場を作る雇用創出型▽短時間勤務を希望する女性や高齢者が働きやすいようにする多様就業促進型という分類があった。
今回は、雇用維持型だが、非正規の雇用を守るという点で、従来とは違う仕組みが必要となる。労働者の3人に1人が非正規というのが現実であり、そこから生じた構造的な問題に直面しているという認識を共有しなければならない。
そこで、当面の緊急対応策として、非正規の雇用維持を最優先とするワークシェアリングの導入を提案したい。ただし、導入するにはいくつか前提条件をクリアする必要がある。労働時間を適正に管理し、同一労働・同一賃金の原則を社会全体で確認すること、サービス残業の撤廃も確実に実施すべきだ。
最後に、ワークシェアリングで賃金を抑制し、雇用を守らないということがあってはならない、と指摘しておきたい。
毎日新聞 2009年1月16日 東京朝刊