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社説

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春闘スタート―雇用の議論を早く、深く

 日本経団連と連合のトップ会談が開かれ、09年の春闘がスタートした。

 連合は物価上昇分を取り戻すベースアップ要求を掲げてはいる。だが、景気と雇用の急速な悪化を踏まえ、労使の議論は「雇用を守るために何ができるのか」に収まりつつある。

 トップ会談に合わせ、雇用の安定・創出に向けた異例の労使共同宣言も出された。狙いは政府への注文にある。緊急策として雇用保険や職業訓練など安全網の拡充を要請するとともに、医療・介護、環境、農業、教育などの分野での雇用創出を求めている。

 雇用対策を打つ責任が政府にあるのは当然として、では労使では何をするのか。その点が心もとない。

 経団連と連合は今後、雇用確保をめぐり定期協議を重ねる予定だが、対応が鈍すぎないだろうか。「雇用」に取り組む機運は年明けから労使双方に出ていた。経団連会長がワークシェアに言及し、連合会長も「話し合いの場ができれば」と応じたのに、動き出すのには半月近くかかった。

 景気は急降下している。労使のスピード感も問われている。

 焦点は何といってもワークシェアだ。生産調整に応じて労働時間を短縮し、相応に賃金もカットするワークシェア的な取り組みは、自動車や電機などの業界ですでに進み始めている。これは生産調整の一環で、春闘とは切り離した緊急措置。連合はそう判断し、個別の労使交渉に委ねる考えだ。

 好況時に蓄積してきた内部留保をいまどう活用するか、配当の水準は妥当かも考えて、労使でぎりぎりの交渉を尽くし、答えを出してほしい。

 春闘では、正社員だけでなく、非正社員も含めたワークシェアについて議論を深めることが課題になる。

 これは、仕事のやり方や賃金の構造など、働き方を全体として見直すことにつながる。岡村正・日本商工会議所会頭が言うとおり、労使双方に「文化の一大変革」を求めるものだけに、これまでワークシェア論議を停滞させる「壁」にもなってきた。

 しかし、失業の不安を抱える非正社員はもちろん、正社員も長時間の残業で疲弊するなど、働き方の矛盾が積もり積もっている。危機のいまこそ、労使で展望を開くべき時だ。

 ワークシェアを進めれば、両者の待遇格差を縮めることになり、非正社員の抑制に効果があるだろう。同時に、正社員と非正社員との間での仕事の分担方法を再考し、暮らしに合った多様な働き方を実現することにもつながることが期待できる。

 これまで連合は、組合員である正社員の待遇を守ることを最優先し、非正社員の野放図な拡大に目をつぶってきたきらいがある。それだけに、非正社員への取り組みが問われている。

ゼネコン裏金―なぜ自浄が働かない?

 またしてもゼネコンが会社ぐるみで巨額の裏金を作り、工事の受注工作に使っていた疑惑が明らかになった。

 海外で作った裏金7千万円を税関を通さずに国内に持ち込んだとして、準大手ゼネコン「西松建設」の元副社長ら4人が逮捕された。裏金は、国内分も合わせると20億円を超すとみられている。

 裏金づくりがなければその分、工事の値段が下がったはずだ。公共工事なら納税者、民間工事なら発注者やその利用者が被害を受けたことになる。

 このカネが、何の目的でだれに渡ったのか。東京地検特捜部は事件の全容を解明してほしい。

 裏金の使い道をめぐる疑惑は三つ浮かんでいる。

 第1は、原子力発電所建設に絡んでいる。西松の関連会社から福島県の建設会社に融資された1億数千万円が、事実上の資金提供だった疑いがある。この建設会社は原発関連工事の地元対策資金の受け皿だったとされる。

 不況で同業他社が業績を落とすのを尻目に、西松は原発事業に進出した。新分野の開拓に裏金は使われたのか。

 第2は政治に関係する。同社の社員数十人が個人名で01年、衆院議員の資金管理団体に一律12万円を寄付していた。OBが代表を務めていた二つの政治団体は与野党の政治家側に献金していた。両政治団体の関係先は、特捜部の家宅捜索を受けている。

 第3の疑惑は海外にある。タイのバンコク都庁が発注した洪水防止の排水トンネル建設工事をめぐって、当時の都の首脳周辺に向けて約2億円のわいろを支出していた疑いだ。

 企業活動の国際化を受けて整備された不正競争防止法で、外国公務員への贈賄が禁じられた。昨年、大手建設コンサルタント会社の前社長らが、ベトナムを舞台とした事件で摘発されたばかりだ。日本政府はタイ政府と協力し、国際的な疑惑を解明してほしい。

 裏金疑惑は西松だけではない。大手ゼネコンの「鹿島」でも、十数億円の裏金が作られていた疑惑がある。

 西松を含むゼネコン各社は、93〜94年のゼネコン汚職事件で大規模な摘発を受けた。05年には大手ゼネコンが談合に決別宣言をした。

 しかし、受注競争の厳しさや工事に絡む利害調整の難しさなどを背景に、「裏金は必要悪」とする風土から抜け出せず、談合事件も後を絶たない。

 建設業界はまず「工事に絡む困難は万事カネの力で解決すればいい」というモラルの退廃を自ら矯正する必要がある。政界の中にも業界のこうした体質に甘い伝統がまだまだ残っていないか。

 業界がこの風土病を根治しなければ、業界のイメージはいよいよ地に落ちる。それでいいはずはあるまい。

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