「毎日1冊!日刊新書レビュー」

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2009年1月16日

ひとは死ぬまでひとを求める〜『夫婦で読むセックスの本』
堀口貞夫・堀口雅子著(評:澁川祐子)

生活人新書、700円(税別)

澁川 祐子

2/2ページ

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 本書の終盤には、「最後のセックス」という言葉が出てくる。この言葉の出所は、著者たちの友人であり、日本でいち早く「老人の性」を調査し、その実態をもとに『老年期の性』などを著わした故大工原秀子氏だ。

 あるとき、大工原氏が貞夫氏に向かってこう話したという。

〈最期のお別れは、夫婦ふたりだけにしてあげましょうよ。いろいろな思いをこめたふたりのタッチングがあってもいいじゃないの。(中略)人は死に臨むとき、身近な人にそばにいてほしい、ひとりではなかった、生きてきてよかったと感じたいのではないかしら。抱きしめてあげたり、やさしく手を握るように、愛を込めて性器にそっとふれてもいい。そんなふれあいを持つことが、夫婦にとっての“最後のセックス”になるのです〉

 これを受け、夫の貞夫氏は、

〈人とのつながりやぬくもりを感じたい。その思いは病に倒れても、いくつになっても、誰の心にもある人間らしさでもあるのです。/人間は死ぬまで、こうして人を求めるのではないかと思います〉

 そして、妻の雅子氏は、

〈「最後のセックス」の話は私も聞きましたが、思わずぐっときて、それからは当時勤務していた病院で、お別れの際の心くばりを看護師とともに考えたものです。どんな夫婦にも、誰にも入り込めない、大切なものがあると思うから〉

 と語る。

夫婦はもっと、ずっと愛しあえる

 堀口夫妻が言うところの「夫婦のセックス」とは、「挿入」にまつわる性行為そのものだけを指すのではない。視線を合わせ、あいさつを交わし、手をつなぎ、相手と接すること。そうした「ふれあい」すべてを包み込む、もっと広義なものなのだ。だからこそ、安易な解決策を提示せず、それぞれの夫婦にとってベターな関係を探っていくことを優しく繰り返すのである。

 彼らもまた、お互いを思いあいながら40年という歳月を過ごしてきた一組の夫婦である。二人のやりとりからは、それこそ“誰にも入り込めない”強固な絆が感じ取れる。帯文の「もっと、ずっと愛しあえる。」も、まんざらではないなという気にさせられる。

 ハウツー本かと思いきや、実は性を通して「夫婦の心得」を説いた本書。「しょせん夫婦なんて」とわかった気になるのは、まだまだ早いと思い知らされた。

(文/澁川祐子、企画・編集/須藤輝&連結社)


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著者プロフィール

澁川 祐子(しぶかわ・ゆうこ)

フリーの物書き。1974年、神奈川県生まれの東京郊外育ち。ビジネスからサブカルま で幅広く執筆。書評サイト「review-japan」編集部員。最近は、本と の出会いの場「グラデーションブックス」の起ち上げに奔走。


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