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前々から、疑問だった。セックス関連のハウツー本がなぜそれほど売れるのか。
もちろん、ちょっとした興味も手伝ってヒットに押し上げられていることはわからなくもない。でも本気で悩んでいたり、満足のいく性生活を送りたいと思っているなら、そんな本を読むよりまずは相手をちゃんと観察したほうがいいんじゃないか。「こうしたらいい」「こうあるべき」というマニュアルが思い込みを深め、逆に相手との距離を広げてしまっていることもあるんじゃないかとつねづね思っていた。
タイトルだけ見ると、本書は「よくあるハウツー本」の一種として見過ごしてしまいそうな一冊だ。だがよくよく著者のプロフィールを見ると、類書とは一風異なる印象を受ける。
まずは著者二人が夫婦であること。つまり、男性側、女性側のどちらか一方の目線で書かれた本ではないことがわかる。
次に、二人が70歳を超えていること。この年代の人が性について正面から語ること自体がそもそも珍しいし、高齢だからこそ語れる「夫婦の性」があるのかもしれないという期待もわいてくる。
そして、二人とも産婦人科の医師として長いキャリアを持っていること。夫の堀口貞夫氏は愛育病院の元院長、妻の堀口雅子氏は虎ノ門病院産婦人科の元医長である。現在は、夫婦ともどもカウンセリングを重視した診療所で働いている。長年、現場で患者と向き合ってきた人たちならば、それなりの説得力もありそうだ。
そう考えて、いつもなら手に取らないジャンルの本書を読んでみた。
50歳を過ぎたらセックスは「卒業」か
夫の貞夫氏が書いた本文に、妻の雅子氏がフォローを入れる。二人三脚で、妊娠や出産、更年期、さらにはシニア期と、ライフサイクルにともなう男女の体の変化と、そのときどきに発生しやすい悩みや夫婦間のすれ違いを取り上げている。「挿入神話」に縛られている現状とそれに付随するセックスレスの問題や、妻が妊娠中の夫婦関係の在り方など、すでにどこかで聞いたことがある話題も多い。
マニュアルという意味でこの本に目新しさがあるとすれば、それは50歳を過ぎたあと、更年期を迎えてからの夫婦の性が語られている点だろう。50代でセックスは「卒業」なのか。妻が性交痛で「できない」と訴えてきたとき、どうすべきか。
しかし、こうしたもろもろの問いに対しても、たとえば閉経後の女性が性交痛を感じるのは膣の乾燥が原因で、対策としては産婦人科に通院してエストロゲンを補充すること、潤滑剤としてゼリーを使うこと、などいくつかの具体的な手立てを示してはいるものの、最終的には「お互いの気持ちを素直に伝えよう」というコミュニケーション論に落ち着いてしまう。“目からウロコ”の解決策を求めている読者は、少なからず肩すかしを食らった気分になるに違いない。
だからといって、この本が取るに足らないかといえば、そうとも言い切れないのである。なぜなら、最後まで読むと、しみじみと「夫婦っていいものかもしれないなあ」という気持ちにさせられるからだ。