深刻な景気後退のなかで、業績を伸ばしている元気な企業がある。「派遣切り」「賃下げ」が相次ぐなか、従業員や顧客を大事にして逆境を乗り切る姿勢に共通点がある。(浅見和生)
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前年比200〜400%の売り上げ増を続けているソフトウエア開発会社「フェンリル」(大阪市北区)の社是は「残業禁止」だ。取り組み始めて2年余りになる。
主力商品は、自社開発のブラウザー(インターネット閲覧ソフト)「スレイプニル」。パソコン画面の一つの窓の中で複数ページを切り替えられる「タブ機能」をいち早く導入し、「インターネット白書2008」(インプレスR&D発行)によると、国内の個人利用者数はマイクロソフトの「インターネット・エクスプローラー」などに次ぐ3位だ。
同社の就業時間は午前9時半から午後6時まで。毎日午後6時前になると、約30人の社員が一斉にパソコンの画面を閉じ、帰り支度を始める。「お疲れ様」。声をかけ合い、1人、また1人とタイムカードを押していく。社外に会社のデータの持ち出しを禁止しているため、仕事の持ち帰りはできない。終業後に週4回、習い事や趣味のサークルに通う小野菜美子さん(26)は「オンとオフが明確だから、仕事も集中できるような気がする」と話す。
柏木泰幸社長(27)は05年6月、大阪府藤井寺市のマンションの一室で、友人らと3人で起業した。大学卒業後、いったん大阪市内の会社で技術者として勤務した際、同じ成果でも残業代が多かった同僚の給与に「何で?」と感じたのが、残業ゼロを始めた原体験だ。昨夏には大阪・梅田の真新しい高層ビルに引っ越した。
限られた時間の中で成果を求めるため、能力主義の側面は強くなるが、柏木社長は「残業を無くすことで、社員にはゆとりを持った生活をして欲しいんです。作る人が幸せでなければ、良いアイデアなんか浮かばない」と社是の効用を説く。