会社ぐるみで不正に手を染める体質が一向に改まっていないのか。準大手ゼネコンの西松建設のことだ。海外にプールした裏金を無届けで国内に持ち込んだとして、元副社長ら4人が外為法違反の疑いで東京地検特捜部に逮捕された。
西松建設といえば、93年に当時の副社長が仙台市長への贈賄容疑で他の複数のゼネコン幹部らとともに逮捕され、その後、茨城、宮城両県知事や元建設相らが次々と逮捕される「ゼネコン汚職」の発端となった一社だ。
その時、常務だった国沢幹雄・現社長は記者会見で「現金支出は徹底してチェックできる体制にしたい」と語っていた。その社長宅が今回の事件では関係先として家宅捜索されている。ゼネコン汚職の反省と教訓を踏まえ、社を挙げての法令順守の徹底が図られてきたかと思いきや、不正はその後も温存されていたと疑われてもやむを得まい。
外為法などでは100万円を超える現金を海外から国内に持ち込むには税関への届け出が必要だ。逮捕容疑は、元副社長の指示で海外で作った裏金のうち計7000万円を無届けで持ち込んだとしている。特捜部はこれを突破口に裏金の流れを解明する方針だ。
西松建設は十数年前から海外の建設工事の経費水増しなどで10億円以上の裏金を捻出(ねんしゅつ)して香港の口座などにプールしたとされる。これほどの裏金が一体何に使われたのか。ゼネコン汚職では多くの社が裏金を政治家や自治体トップらにばらまき、工事が受注できるよう工作していた実態が判明したが、そうした構図が今も残るのか。海外事業の受注工作で資金が必要だったのか。特捜部には使途の全容を暴いてもらいたい。
西松建設のOBが設立した政治団体から与野党の有力政治家らの資金管理団体などに政治献金が行われ、その一部の原資に裏金が充てられた疑いも出ている。資金管理団体への企業献金は00年から禁止されたため、政治団体が隠れみのになった可能性もあり、そうなると政治資金規正法違反の疑いも浮上する。徹底解明が必要だ。
ゼネコンをめぐっては、鹿島がキヤノンの大規模プロジェクトを受注するため、大分市のコンサルタント会社に多額の裏金を渡したとして国税当局から追徴課税されている。民間の工事も含め、受注工作の見返りに裏金を提供する慣行が続いているとすれば許されることではない。とりわけ公共工事では政官業の腐敗につながる。業界全体が一刻も早く「裏金体質」を一掃すべきだ。
05年には「談合決別宣言」をしたにもかかわらず、その直後から名古屋市発注の地下鉄工事で大手などが談合を行い、独占禁止法違反容疑で逮捕者を出したゼネコン業界だ。不正を繰り返す業界の体質を根本的に変えなければならない。
毎日新聞 2009年1月15日 東京朝刊