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「米国だけでは難題を解決できないし、世界も米国抜きでは解決できない」。オバマ米次期政権の国務長官に指名されたヒラリー・クリントン上院議員が、こんな表現で国際協調主義を語った。
経済危機への対応もそうだが、オバマ氏は正式就任と同時にさまざまな課題にすぐ取りかかれるよう体制づくりを急いでいる。クリントン氏も上院外交委員会の公聴会に臨み、新政権の外交の基本姿勢を述べた。
米国が直面するのは、イラクとアフガニスタンでの戦争、テロや大量破壊兵器の脅威だけではない。クリントン氏は、地球温暖化や感染症の拡大、途上国の貧困なども列挙した。こうした課題に対応するため、米国は軍事力だけでなく、経済・文化のソフトパワーも組み合わせる「スマート(賢明な)パワー」の外交を目指すという。
悪の枢軸や中東民主化といったスローガンを掲げて「力の論理」をむき出しにしたブッシュ外交からの決別宣言である。
仲間を増やし、敵を少なくして目的を果たそうという戦略だ。国連をもっと活用する。オバマ氏が国連大使を閣僚級に格上げしたのもその表れだ。単独行動主義からの脱却を歓迎したい。
具体的には、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准や、地球温暖化防止のためのポスト京都議定書の交渉促進を約束した。
選挙戦では、クリントン氏は外交の経験がないオバマ氏を「ナイーブ」などと攻撃していた。だが、公聴会では、核開発を進めるイランとの直接対話を探る姿勢も見せるなど、オバマ外交の推進役となる決意を示した。
圧倒的な知名度を持つクリントン氏である。国際舞台では、米外交の「顔」として注目を集めるに違いない。
その最初の試金石は、中東和平だ。すでに「パレスチナ自治区ガザの惨状にオバマ氏はなぜ声をあげないのか」という不満の声が、イスラム諸国を中心に出ている。侵攻を拡大するイスラエルに圧力をかけ、停戦を実現するには米国が一日も早く公正な仲介者としての立場を取り戻さねばならない。
アジア政策で急を要するのは北朝鮮の核問題だ。6カ国協議の枠組みを継続しつつ、場合によっては重油支援中断で圧力をかける構えも見せた。硬軟両様で臨むということだろう。
日米同盟を「アジア太平洋の平和と安定の礎石」と位置づけ、中国には「国際社会の全面的で責任ある参加者」になるよう呼びかけた。
新政権が日本重視か、中国傾斜かという、ありがちな議論には意味がない。この地域、そしてグローバルな課題に日米基軸で中国をどう巻き込み、協力していくか。その構想を持ってこそ健全な同盟関係が築かれる。
男女共同参画社会基本法。長くて堅苦しいのが玉にきずだが、この画期的な法律ができて10年になる。
女も男も、それぞれの個性や能力を発揮できる社会をつくっていこうというねらいだ。さて、その理想はどこまで実現したのだろう。
内閣府によれば、女性の衆院議員の割合は9.4%にすぎず、国際的にみると、かなり低い。政策決定の場への共同参画にはほど遠い。
男性の意識には変化が見られる。女性の働き方で、子育てなどの中断なしに仕事を続けるのがいいとする人が急増している。しかし、自らが家事や育児に費やす時間は、共働きかどうかに関係なく、30〜40分ほどしかない。頭では理解できるが、というところか。
一方で、女性の働き方は、子育て期の30代以降になると、パートやアルバイトといった非正規雇用の割合が高くなり、40代以降では正規雇用を上回る。中年になると安定した仕事に就けないのが現状だ。
法律のめざす社会への道はなお遠い、といわざるを得ない。
しかし、この歩みを止めるわけにはいかない。
さまざまな場面にある格差を解消し、平等を実現するだけではない。例えば、少子化の解消につながることも期待できるからだ。女性が働きやすく、男性が家事参加に積極的な国は、出生率が高いことが知られている。
法律の趣旨を自治体で実践する場が男女共同参画センターや女性センターだ。地域住民の相談や学習・啓発の拠点となってきた。
政府の男女共同参画会議は昨秋、こうしたセンターの役割を見直し、地域の人々がかかえる具体的な課題解決に取り組むことを求めた。地域でリーダーになる女性は少なく、女性の力が十分に発揮される場面もまだ少ないといった実情があるからだ。
先進的なセンターは、シングルマザーを対象に、スキルアップのためのパソコン講座や男性の生活自立を支える料理教室を開いたり、NPOと連携した企画を立てたりして成功している。
盛岡市にある「もりおか女性センター」が、昨年暮れに起業講座を開いた。20代から50代の14人が参加した。
街中で自然食の民宿を開きたいのは40代の主婦だ。「夫の転勤先の海外で知った朝食だけを出す宿にしたい」
派遣社員で働きながら、社会保険労務士の資格をとったので、自営につなげたいという女性もいた。
女性のパワーが、いきいきとした地域を生み出すことを予感させられた。財政難でセンターを縮小しようとする自治体も出ているが、逆にこうした活力を生かさない手はない。
暮らしの場で存在感のあるセンターがいまこそ求められている。