アラーの国のフットボール

アラブ世界がG大阪を絶賛「カミカ-ゼ・ヤバン!」


海島健さん

海島健さん (1)

2008/12/21 18:42

<クラブW杯:マンチェスターU(イングランド)5-3G大阪>◇12月18日◇横浜◇準決勝
 クラブW杯、G大阪-マンチェスターUの試合はアラブ世界のTV局の人たちも大いに魅了したようだ。前半はそれほどでもなかったのだが、後半の展開に大いに盛り上がり、最後は「ありがとうガンバ」の言葉まで出た。5失点の敗戦は日本ではどう受け止められたかは分からないが、それでもアラブ世界が絶賛したのはなぜか。それはG大阪の勝負に対する執念という面もあるだろうが、それとともにサッカーという枠を超えた部分もあるような気がする。

 試合は、隣でアラビア語から英語にしてくれる友人の訳を聞きながらテレビ観戦した。
 前半、G大阪がマンUをパスワークで攻め立てるシーンなどでは、アナウンサーはいつものように決まり文句「コンピューター・ヤバン」と叫ぶ。これは「コンピューター日本」という意味で、コンピューターと言えば何といっても日本製、常に改良を怠らないのも素晴らしい。正確なパスワークはアジアサッカー界ではコンピューター級といったようなニュアンスで使っているのか。「最近急成長したJのクラブ。(2年連続でACLのタイトルを取ったことを主に指しているようだ)堂々たる戦いぶりです。アラブのクラブもこれを目指し、目標にしないといけません」と解説した。

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  だが、28分ビディッチに決められ、前半終了間際にもCロナウドにも決められて0-2で前半終了。

 さて、ハーフタイムのまとめはどんな感じになるのだろう。「ガンバは自信を持ってプレーし攻め込んではいたけど、相手は欧州一のビッグクラブなのだから、前半はもっと慎重に(守備重視で)戦うべきではなかったか。」とか、「マンUは前半はそれほど全開で来ていたわけではないように見えたが、2点決めちゃいましたね」などと痛いところをついてきた。日本人としては「遠藤をはじめ選手は(中途半端なことはしない)というコンセプトでやっているんだよ!」と言いたいところではある。
 それでも、後半に向けて「マンU相手に負けても誰も批判なんかしない。失うものは何もないのだからがんばれ」と(それいけニッポン)といった感じの好意的なコメントで締めくくられて後半に入った。

 アラブ世界の心の琴線に触れたのはG大阪の後半の戦いぶりにあった。
 後半が始まっても、失点を恐れるのではなく、リスクを負って攻撃に出て行くG大阪の姿勢に「マンUを恐れることなく攻める気満々でいいですね」と発言。後半29分にFW山崎が得点を決めて1-2としたあたりからだろうか、気づくと絶叫するせりふが「コンピューター・ヤバン」から「カミカ-ゼ・ヤバン」になっていた。こちらでは、スシやテンプラを知らないような人が神風特攻隊のことを知っていたりすることもある。もちろん反日の象徴などではなく、強大なものに命がけで立ち向かう姿勢を賛美したもので概ね日本人の勇敢さを称える時に使われる。

 1-2になったのもつかの間、その後5分ほどの間に3失点で1-5になるも、G大阪の攻める姿勢に変化はなく、遠藤のPKや橋本のゴールが決まり、そのたびにアナウンサーは「カミカ-ゼヤバン!」と絶叫してくれた。そして、3-5でのゲーム終了。
 試合後、解説者も一様にこのG大阪の「カミカゼアタック」に心を動かされたようで、日本人としては何か面映い言葉が並んだ。
 「G大阪は負けたけど下を向く必要まったくない。世界はガンバを尊敬する」
 「マンU相手にリスクを冒してガンガンいった。アジアのチームでも欧州ビッグクラブと堂々戦えることを世界に示した」
 「後半のスコアだけを見れば3-3の引き分け。このゲームが観客を魅了したのはマンUのおかげというよりは、ガンバの攻撃的なスタイルのおかげ、シュクラン(=ありがとう)ガンバ」

 一体、この賞賛の嵐はどこから来るのか。1つには昨今のアラブ世界のクラブの戦い方にあるだろう。最近、裕福なアラブのクラブチームが欧州のクラブを招いて親善試合をすることが増えたのだが、守りをガチガチに固めて挑むスタイルがほとんどで、負けるにしても0-1とか0-2くらいにして大恥をかくのを回避する傾向がある。見る方にはフラストレーションがたまるのは言うまでもない。そういった中、今回のG大阪の超攻撃スタイルは相当好評だったと筆者は見る。

 もう1つはG大阪の選手が審判の判定に必要以上にガタガタ抗議をしないのもこちらでは好意的に見られているようだ。審判の感情をいたずらに刺激しないし、選手もきちんと試合に集中していると評価されていた。「潔さを感じる」と。「この態度が好ゲームを生んだ1つの原因」ともいっていた。

 そうしたサッカースタイルがアラブ世界に好意的に受け入れられたのは間違いないと思うが、さらに考えると、そこにはアラブ世界の歴史とか文化的な背景もあるように思う。

 イスラム教とイスラム国家の歴史は強大な西欧社会との戦いの歴史であったと言っても過言ではない。十字軍の遠征などがその好例だろう。相手がどんなに強くても屈しないのがアラブ世界の誇りなのだ。絶対的な強者に自滅覚悟で向かっていくという行為はアラブ世界には本当にたくさんある。銃を構えたイスラエル兵に石を投げつけるパレスチナのインティファーダや、米国同時中枢テロ事件、イラクなどでの自爆テロ。つい先日もイラク人の記者がブッシュ大統領に記者会見中に靴を投げつけたことに一部で賞賛の声があがったりした。

 もちろんテロは決して許されないことであり、筆者も、そして伝えていたヨルダンのテレビ局やアラブ世界の多くの人たちもそうした価値観は共有していると思う。それは「強い者に命をかけて戦いを挑む」という手段においてのテロを否定するものだ。だが、そうした長い歴史の中で意識の底流に形成されたアラブ世界の誇りは、第2次大戦で西欧社会に戦いを挑んだ日本や神風特別攻撃隊への賞賛につながり、そして今回のG大阪の戦う姿勢に共感を呼んだのだと思う。G大阪の戦いぶりは、西欧のビッグクラブに1点差負けでしのいで、大敗の屈辱を避けるような戦いぶりが果たしてアラブのあるべき姿なのか、という命題を突きつけているようにも思える。

 話が大きくなってしまったので、サッカーに戻そう。
 アフリカ大陸北部とアラビア半島にまたがるアラブ世界。いうなればアジアとアフリカをまたにかけているわけであるが、その代表がアフリカ代表(アル・アハリ)とアジア代表(G大阪)ということにもなる。この2つのチームにはぜひがんばってもらいたいというこちらの人のサッカー観(=世界観)をちょっと垣間見たような気がしてうれしかった。
 日本は意識をしていないのかもしれないけど、しっかりアラブ世界につながっているんですね。そう言えば06年W杯の日本-ブラジル戦では、チュニジアのアナウンサーの超日本びいきの実況放送がアラブ世界に流れている。
 3位決定戦のG大阪-パチューカもアラブ世界はちゃんと見ているから、それに恥じない戦いをしてほしいものだ。

※写真はスルーパスを出すG大阪MF遠藤(撮影・栗山尚久)

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コメント (2)

プーアールさん

プーアールさん (0)

2008/12/24 23:37

このゲームは運良くスタジアムで観戦する事ができましたが、とても楽しかったですよ。

勝負にはなりませんでしたが、多くの事がわかる良い機会でした。
来年のドーハ開催も楽しみですね。

少し早いですが、メリークリスマスとともに年末のご挨拶を。
来年も宜しくお願いします。^^

海島健さん

海島健さん (1)

2008/12/25 15:43

フーアールさんへ

それは本当にラッキーでしたね。
実際に観戦されたひとたちの満足度は高かったとお感じになりましたか。

こちらこそありがとうございます。
またよってくださいね。



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