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『 技術 』 ― 未来への挑戦 ―
◆原子力の新しい形

  【下】 東芝の原子炉向け熱電モジュール

 
 原子力発電は原子炉から取り出した熱で蒸気をつくり、これでタービンと発電機を回す。だが、原子炉の熱を直接電気に変換する技術があれば、タービンや発電機は不要になる。
 東芝が開発した熱電変換モジュールは、こんな発想から生まれた。

   ― 排熱利用で「社会変えたい」 ―

温度差から発電

 原子炉の中心部にある燃料の温度は2千度を超える。これを覆う被覆管の外側は500度前後。つまり被覆管の内と外で温度差が生まれる。温度差で発電するモジュールをここに置けば、極めて効率よく熱エネルギーを電気に変換できるというわけだ。
 しかし、この技術が簡単に実現するかといえば、そうではない。原子炉や核燃料は規制のかたまり。炉心に電池を置くようなことは許されないし、たとえ規制をクリアしても、炉心の超高温に耐えられるモジュールを開発するには相当、時間がかかる。
 開発者の近藤成仁・東芝電力社会システム社事業開発推進統括部課長代理も「炉心に置ければ最高だが、実現するかはまた別の話」と、その辺りは心得ている。
 それでも「この技術で社会を変えてみたい」と夢を膨らませる。「ボイラーや自動車など社会のいたるところに排熱がある。つまり熱が捨てられているわけだが、これを電気に変えていけば、社会全体のエネルギー効率はもっと向上する」
 近藤さんらが開発した熱電モジュールによる発電の仕組みはこうだ。
 モジュールの心臓部である熱電素子の上部を熱し、下部を冷やして温度差をつけると、電位差が生まれる。この時、温度の高い上部から下部に向かって電子が流れ、このエネルギーで発電する。
 モジュールの耐熱温度は500度。上部と下部で温度差が480度ある時、最も効率よく発電する。モジュール面積1平方センチメートルで1ワット以上の発電を行う。モジュールをつなぎ合わせることで、大規模な発電システムの構築も可能だ。東芝にはボイラーや焼却炉を持つ工場などから多数の引き合があるという。
 太陽電池がライバルだが、ライバルより優れたエネルギー変換特質もある。熱で発電するのはもちろん、その逆も可能だ。熱電モジュールに電気を与えると、今度はそれを熱に変換、つまり発熱する。使い方次第で、電気も熱も取り出せるというわけだ。太陽電池は光で発電しても、電気で光をつくることはできない。

普及への課題も

 さまざまなメリットを持つ熱電モジュールだが、普及には課題もある。耐熱性とコスト、それに知名度がいまひとつだ。500度以上の高温に耐えられるモジュールも出てきたが、数は少ない。太陽電池の価格が1キロワット当たり約70万円まで下がってきたのに対し、量産手前の熱電モジュールにそこまでの競争力はない。開発の歴史が浅いため、太陽電池のように社会や生活の中に溶け込んでいるとはいえない。
 しかし、近藤さんは言う。「どんな技術にも壁がある。でも、あきらめたら終わり。量産や技術開発でコストを下げていけば必ず普及する。数年以内に太陽電池を下回るコストを実現する」
 ボイラーや自動車の排熱発電のほか、冷蔵庫や腕時計など様々な製品の電源として期待される熱電モジュール。
 近藤さんらの開発陣が合言葉にする「一家に1台熱電池」。そんな時代が来る日も遠くはなさそうだ。
(この連載は新保新吾が担当しました)
電気新聞 4面(2004年10月5日付)に掲載

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