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マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「ボーリング・フォー・コロンバイン」にも登場するバリー・グラスナー教授の著書「アメリカは恐怖に踊る」は、「恐怖商人」たち、そして恐怖商人がつくりあげる「恐怖の文化」の解読書といえます。
「銃声そのものは何ら恐ろしいものではない。銃声の予感が恐ろしいだけだ」。恐怖の巨匠、アルフレッド・ヒッチコックのこの言葉が、いかにして様々な形に加工され、日常生活にばらまかれているか。うんざりするぐらいの実例は、しかし確かに自分の日常でも日々、目にするものばかりです。
実例として本の中であげられているのは、当然アメリカのケースなのですが、訳者あとがきでも書かれている「誘拐の恐怖」に関しては、アメリカ滞在で実感したことがあります。アメリカのスーパーで牛乳を買うと、牛乳パックに子供の顔写真がついていて、「この子供は、いつどこそこで誘拐されて行方不明です。」と書いてあって、毎朝、冷蔵庫をあけて朝食を食べるたびに、それを読むことになります。アメリカでは子供の誘拐が日常茶飯事のように起きている、と、実はこの本を読むまでそう思っていました。
本書を訳しながら、まざまざと思い出したことがある。1980年代の終わりごろだったと思うが、アメリカを訪問した私は、書店でもらったビラを見て驚愕した。ハガキ大のそのビラには子供の顔写真とともに「行方不明の子供がアメリカ全土で80万人」と印刷されていたのである。数年後、ボストンで暮らしていた私は、まだ赤ん坊だった娘を連れてスーパーマーケットへ行った。すると、親切そうな老婦人がつと近づいてきて、私の目をまっすぐに見ながら、こう言った。
「気をつけなきゃだめよ。こういう場所では、一分だって子供から目を離しちゃだめ。親がほんの一分間、目を離しただけでさらわれてしまった子どもがたくさんいるのだから。
しかし本書のなかで明らかにされる本当の実態とは、
もちろん事件の一つひとつは、どれも恐ろしい犯罪である。しかし、すべての子どもが同じような危険にさらされているわけではない。家族や親戚の場合でも、赤の他人の場合でも、変質者は攻撃しやすい子どもをターゲットにする傾向をもっている。障害児やコミュニケーションの下手な子ども、何を言っても大人に信用されない問題児、そして親が留守がちだったり、危険にたいして無頓着な家庭の子どもがとくに狙われやすいのだ。(P114)
なぜ実際の数字以上に誘拐を恐れるのか。変質者による誘拐事件はニュースになるからと、一つの事件を執拗に繰り返し報道する。悲しむ被害者の家族などをインタビュー攻めにすることで、視聴者の感情に訴える番組をつくる。あるいは事件が無ければ、10年前の事件を「緊急公開捜査」などとして、元FBI捜査官や霊能力者まで総動員してスペシャル番組として放送する。
想像にがたくないメディアの効果についても、一通りの解説がなされていますが、それよりもはるかに驚いたのは、「親の不安をあおれば金になる」と、マーケティングの手段として利用する企業がある事実でした。
「この子は消えてしまった---家にいない---という認識が、おそらく自分の家庭からも何かが欠けているのではないかという不安を引き出す」
どんな宣伝も、成果を上げるためには二つの目的を満たさなければならない。第一に、人々の心をつかむこと。第二に、人が抱えている問題を解決してくれるのがこのサービスや商品なのだと説得すること。アドヴォのメール発送者は、巧妙に、そしてすばやく、二つの目的を達成する。かわいそうな子どもの写真は瞬時にして人々の潜在的な罪悪感や恐怖心を刺激するので、消費者はそのハガキを他のジャンクメールと一緒にゴミ箱に投げ捨てることができず、読んでみようという気になってしまう。そして無意識のレベルで、自分が抱えている問題を解決したい気持ちになる。アイヴィによると、こんな心理状態に陥るのである。
「私にはこの子を見つけてあげることができない。だけど、他に何かが欠けていて、それをどこかで見つけられるかは、この広告が教えてくれる---ドミノ・ピザ、スターリング・オプティカル社の眼鏡、タイアマン、ハイドロフロー、トワイニング社の絨毯とカーペット・クリーニング、ジフィ・ルーブ…」
他にも、万が一、子どもが行方不明になったときに捜査資料として警察に提供するための、子どもの映像ビデオを無料で製作するサービスを提供するブロックバスター。万が一のときに「FBIやCIAのエージェントだった人材」が捜査にあたってくれる、という保険のために年間300ドルを支払うサービスを提供する「ファミリー・プロテクション・ネットワーク」など、ありとあらゆる”誘拐ビジネス”が存在していると指摘します。
一見すると、安全のために余分なお金を払える人だったらいいじゃないか?と思っていまいがちなのですが、実は、本当に問題を解決するために必要なお金が、架空の恐怖によって浪費されてしまうという大きな矛盾を、グラスナー教授は指摘しています。
子どものビデオ撮影料や、誘拐保険に支払れている金額を、裕福でないシングルマザーが子どもを家に残して働きにでなくてはいけない問題の解決につかえないのか?
しかし現実はこれとは逆に、バスで片道2時間もかかる富裕層の住む町で、自給5ドルのウェイターの仕事を提供するプログラムが、企業の社会貢献の一環として提供されている、という問題は映画ボーリング・フォー・コロンバインの中でも指摘されていました。
一部の特殊な事件を煽り立てる恐怖の商人のターゲットは、あくまでもお金を持っている家庭であって、本当の意味で問題にさらされている人々はマーケットではない。そして恐怖の商人によって煽られる恐怖心は、問題の本質自体からも人々の目を遠ざけていく。人々が感じる「歪められた現実」と、実際に解決すべき問題の乖離が、本書の大きなテーマといえそうです。
恐怖商人のマーケティング手法については、書籍のなかで十分すぎるほど知ることができます。そしてその恐怖のマーケティングは、なにもアメリカに限ったことではなく、日本の日常生活にもあふれていることを改めて実感しました。
それはニュースという情報のマーケティングに関しても同じことで、しっかりとした裏づけのない、自称「その道の専門家」によって提供された数字が、ビジネスの過程でコピー&ペーストされながら都合意のいい意味づけがされていく。
テレビを見て感じる、微妙な違和感は、しかしながら「他人事じゃないかもしれない!」という恐怖感に制圧されてしまいがちなのかもしれませんが。
そして恐怖の総和(The Sum of all fears)が銃、そしてより強力な兵器を手にしたとき、なにがおこるのか?
グラスナー教授や、マイケル・ムーア監督が今、この時期に警鐘をならすのは、「恐怖の文化」が世界を覆いつくすことへの強い危機感でもあるのでしょう。
・ アメリカ国内には2億5000万丁の銃がある。ほとんど国民一人に一丁の割合である。6000万世帯が銃を所有しており、2002年には銃撃によって2万8000人以上が生命を落とした(自殺・事故を含む)。
・ 2004年のアメリカの防衛予算は4000億ドルである。この金額は、他のすべての国の軍事支出の合計にほぼ等しい。しかもこの金額には、イラク侵攻と占領に関わる費用(2003年末の時点で920億ドル)も、410億ドルのホームランド・セキュリティー予算も含まれていない。
(中略)
統計によれば、銃撃によって生命を奪われる人々の大多数は、知人や家族や親戚によって殺されている。にもかかわらず、無差別殺人の恐怖にとりつかれたアメリカ人は「自分と家族を守る」ため、いかなる銃規制にも激しく抵抗する。真の脅威--事故死や自殺、そして銃がすぐ手元にあるために起こる衝動的な犯罪--を冷静に見極めれば、社会は厳しい銃規制に向かっていくだろう。しかし「恐怖の文化」は、真の脅威とかけ離れたところで育っている。
恐怖に対抗するには、まずその恐怖自身を冷静に見直す必要がある。恐怖によって湾曲された現実に、感情的に反応するのではなく、問題の本当の原因は何なのか?という真摯な視点を持ち続け、その解決にこそ必要な資金や人材を投入すべき。
抽象的に書くと、あまりに当たり前に聞こえます。しかしそれは、目の前の現実にたいして、冷静に良識をもって取り組むことの難しさを、同時に意味しているともいえます。こういった本がアメリカで話題になることに希望を持ちたいところです。
カンヌ国際映画祭では、マイケル・ムーア監督の新作『華氏911』が最高賞のパルムドールを獲得したけれども、これも文化としての政治が根付いている、いかにもフランスらしいというか、シラク大統領もせっかく親日家なのだから、某国の総理にもテキサスの田舎以外でもしっかりと議論していただきたいと本当に思います。
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