3−1
あの明日香の家(俺の家でもあるが)を訪問しよう事件が終わってから、ばれそうな雰囲気はなかった。
沙希からは少し目をつけられていたが、俺たち二人が同居しているとは誰も思わないだろう。
あれから大きな事件もなく、高校生初めての夏休みがやってくる。
と言うか、明日から夏休み。
俺の親は夏休みでも家には帰ってこないだろうし、俺も会いに行こうとは全く持って思っていない。
「風紀、私ね」
明日香と一緒に晩御飯を食べているとき、ふと明日香が言った。
「ん?」
俺は聞くつもりだが箸は止めない。
「私ね、夏休み少しだけ実家に帰ろうかと思っているんだけど風紀どうする?」
いや、どうするって言われても…何が?
「…どうするって?」
一応聞いてみる。
俺の頭の中では『一人でやっていけるのか?』を聞いているんだと考えているのだ。
「だから、一緒に実家に行くのかって事。風紀、夏休み映画を撮りに行くまで暇なんでしょ?」
そうそう、夏休みに学園祭で発表する映画を撮りに行くから、8月から部活があるのだ。
台本は部長と、龍先輩が作っているらしい。
…どんな話になるのか?
って、違う〜〜〜〜!
俺が何で明日香の実家に行かなければならないのかって言う話なのだ。
「…え?何で?」
考えている最中に漏れた言葉。
「何でって…私の同居している子も一緒にいらっしゃいってお母さんが言っていたから」
「…へ?」
「…へ? じゃないもう一度説明しなきゃいけないのぉ?」
面倒くさそうに言おうとしている明日香を無視して俺は喋り始めた。
「だ、だから同居している人が男って親に言ったの?」
これで、俺の雰囲気を読んでくれ!
「…一応言ったけど?」
…本当ですか明日香さん?
普通の親なら「男と一緒に住んでいるの!? そこにはもう住まないで、家に帰ってらっしゃい」とか言いそうなもんだがな…。
「明日香のお母さんは何て言っていたの?」
「『明日香ちゃんと男の子が一緒に住んでいるの!? その子連れておいで!』って言ってた。すごい乗り気だったよ」
明日香それは本当か?
もし本当だとしたら俺の親並に無神経だ。
けど、その親から明日香が生まれてきたのは、納得できるような…。
「何考えてるの?」
明日香が不思議そうな顔でこっちをジーっと見てくる。
…あまり見られると恥ずかしいって。
「それでどうするの? 私の実家に来るの?」
まぁ、暇だしな。
「明日香はどっちがいい?」
「私は来て欲しいな」
にこ〜って笑ってそう言ってくる明日香。
その顔を見たら俺に迷いはない。
「じゃあ行こうかな」
「わかった! お母さんに電話しておくね!」
そう言って、自分の携帯を取り出した明日香は電話を掛けた。
「もしもし明日香だけど。…うん。元気だよ! それでね? 風紀君が来てくれるって! そ
うそうあの噂の風紀君。…わかったぁ」
明日香の指が電源を切る場所に持っていかれ、ピッと音が鳴った。
…今、俺の事『風紀君』って呼びましたね?
それに、噂の風紀君って何だよ…。
俺は噂になっているのか?
「明後日からいらっしゃいって言ってたよ。お母さんすっごく楽しみにしてそう」
「…そうなんですか」
今の俺にはこれしか答えられない。
「それから実家には4日間いるからね」
「…そうなんですか」
って4日間もいるのか!?
「あとね…沙希も来るの」
「…そうなんですか。って、え〜! 沙希も来るの!?」
「だから、風紀も一人ぐらいなら道連れにしてもいいよ」
道連れって…そんなに危ない所なんですか?
「じゃあ亮平にでも頼んでみるか」
今回も女の子付きなので、一応来るには来るでしょう。
俺はご飯を食べ終わってから亮平に電話した。
「女の子が来る。」といった瞬間「いいよ」と返事が。
さすが、噂、女好きの亮平。
待ち合わせ場所は一応明日香の家になった。
明後日が怖いな。
てか…明日香のお母さんは知っているんだよな?
ヤベ。
これは人生最悪の危機かも…。
明日香のお母さんが「風紀君と明日香は同居しているんだよね?」とか亮平と沙希の前で言われたときには…。
考えるだけでも怖いな。
「あ、明日香…」
リビングでくつろいでいる明日香に言う。
「何?」
「一応お母さんに口止めお願い。」
「何の?」
明日香は全く分かっていないらしい。
「だから亮平や、沙希に俺たちが一緒に住んでいることをさ」
頭の中で今の会話を整理しているのか分からないが、少し間があった後「わかったぁ」と返事が返ってきた。
まぁ、一応大人だからそこらへんは分かってくれるよな。
いくら明日香のお母さんでも。
もう、あの時みたいな危機はできれば味わいたくなかったにのに。
嫌だなぁ…。
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