1−3
「風紀ぃぃぃ! これ可愛くない?」
と、店のイルカの絵が入ったコップを持ち、俺を呼んでいる。
「そんな大きな声出すなって」
「ごめんなさい…。でもこのコップ可愛いでしょ?」
その世界一可愛いと思える笑顔で言われたら否定は出来ないぞ。
「まぁまぁだな」
「じゃあお揃いね!」
と、鼻歌交じりで会計に行く。
もう分かっていると思うが、俺たちは生活に必要な物を買いに来ている。
二人とも昨日引っ越してきたばかりなのでコップやお皿が殆どないのだ。
傍から見れば俺たちは新婚さんのような雰囲気を醸し出しているのだろう。
少しばかり嬉しい気もするが、俺たちは昨日あったばかりだ。
「風紀ぃぃぃ!!!」
…はぁ、また明日香が俺を呼んでいる。
こんな幸せ生活に、ため息をつく俺は間違っているのだろうか。
「今度はどうした?」
「2円足りないのぉ」
「2円かよ…」
はいっと言って俺は財布の中から2円を取り出す。
…え? 俺がコップ代払えって?
何を言いますか読者様。この店は今日行く最後の店。
その前の皿や、タオル、他12品全て俺が払ったんだぞ。
溜息交じりで帰り道を歩く俺。
隣では楽しそうに先ほど買ったコップを眺めながら歩いている明日香がいる。
これから一回家に帰って、また買い物に行く予定。
今度は食べ物のを買いに行くのだ。
今日は明日香が作ってくれるらしい。
二人だと家事を分担できて結構楽な予想が出来る。
ある意味二人でよかった。
そして、俺たちは一回家に帰った後また買い物へと行く。
「ねぇねぇ風紀〜。今日何がいい?」
隣を歩く明日香が聞いてきた。
「まぁ…明日香が作れるやつで美味しいの。」
そう言う俺の言葉をメモする体制に入っている明日香。
「じゃあ、嫌いな食べ物はあるぅ?」
「特にないけど?」
「特にナシ…と。因みに明日香は納豆が食べれないよ!」
別に聞いてないけど…。
「ではでは第2問!」
何故、問題形式になっているんだ。
「風紀の好きな食べ物は?」
「俺の好きな食べ物は…卵?」
うん。はっきり言って卵が好き。だけど、マヨラーではないのだ。
「ではでは第3問!」
と、質問攻めにされる俺であった。
やっとのことでスーパーに着いた。
玉ねぎとかきゅうりとってきて! と命令を下される俺。
俺はパシリですか? 明日香さん…。
「はいはい」と言いながらパシリに使われている。
約10品目あたりの頃…。
「風紀〜次はねぇ…」と言いかけた時近くから女の子の声が聞えた。
「お〜い! 明日香〜じゃない!!」
「あぁ! 沙希! どうしたのこんな所で!」
「お母さんと買い物。明日香は…ってそちらさんは?」
そう沙希という女の子が俺の方を指している。
「えっとこの人は香坂風紀。なんというかお知り合いみたいな?」
「…なんか明日香アタフタしてるぅ! もしかして我が高校で一番可愛い明日香ちゃんの彼
氏?」
「まぁ…そんな感じぃ」
そう言って明日香は笑っている。
と、言うかその前に彼氏ということを否定しないのはなんとも男として嬉しい。
だってあの明日香だぜ?
心臓がバクバクしている。
「えっと風紀?」
「な、何?」
「えっとぉ…この人が水谷 沙希 同じクラスの子だよ」
その人の顔を見ても「あぁ、いたなぁ」って思うぐらい。
顔の良さは明日香には及ばないがなかなかの顔の持ち主と見る。
「よろしく」
一応言っておくのが義理。
「よろしくお願いします! なかなかの顔の持ち主をゲットしてたんだ。明日香は」
「いや、だからなんというか…」
「まぁ深くは追求しないから! また明日ね!」
と言って沙希はその場を立ち去っていった。
「なんか、誤解されていなかった?」
「けど、彼氏みたいな関係って言ったらそうでしょぉ」
うんうん。と頷きながらいう明日香はやっぱり可愛い。
しかも沙希っていう子に「なかなかの顔の持ち主」なんていわれたし…。
少々照れてる俺はなんというやつなんだろうか…。
過去一人だけしか彼女ができていない俺にしてはなんという褒め言葉か!とは思ったけど…。
そう…過去に一人だけ…。
そういや明日香は彼氏いたのかな?
あの話だと今は彼氏いなさそうだし…。
後で聞いてみよ!
そして、買い物も終わりトボトボと家に帰る俺たち。
「今日は疲れたね…風紀」
無言で頷く俺。
はっきり言って本当に疲れた。
生活に必要な物を買いに行ったり、食事を買いに行ったり…。そういやテレビも今日の帰ってきたときに明日香に無理やり言われてつけさせられたな。
まぁ、テレビは生活に必要だからな。
しかもあの笑顔を見たら、どんな男でも「嫌」とはいえない…。
家に着いて、「ふはぁ」と言いながら椅子に座る俺。
明日香は直ぐキッチンに向かい、鼻歌交じりで食事に取り掛かった。
その姿を後ろから見ている…。
その後姿がなんか色っぽくてなんかワクワクしている自分も居る。
けど、こういう状況になっても襲いたいとは全く持って思わないし、男として失格なのか?
それにしても、明日香も明日香だ。
いくら天然だからって、初めて会った人とその日のうちに同じ屋根の下で寝れるという無神経さ。
どいつが聞いても驚くに間違いない。
そういや明日香に一つ聞かなければ鳴らないことがあった。
「なぁ明日香。明日香って彼氏いたの?」
突然の俺の問いにビクッっとする明日香。
「前に一人だけ…かな?」
「へぇ〜そう」
明日香程の顔の持ち主なら10人やそこらは普通に越していると思ってたのに…。
まぁ、そのぐらいが明日香の性格にはぴったりだな。
「どんな人だったの?」とは聞かなかった。
何故かは俺もよく分からないが、あのビクつき方では聞かないほうがいいと本能が言っている
ような気がしたから。
それから1時間ちょい時間を掛けてご飯が出来た。
見た目結構。味結構のナイス料理だ。
というか、美味しすぎる。
…今なら俺、ポエマーになれそう。
|