来年、日米安保条約は満50歳を迎える。この節目に、日米同盟・日米安保体制を「再定義」しようとする動きがある。
国内では、林芳正前防衛相らがその必要性を主張する。国際的テロなど脅威の多様化という安保環境の変化が背景にある。米政府の北朝鮮のテロ支援国指定解除などが同盟関係を傷つけたとの判断もあるのだろう。
米側でも、オバマ氏の外交チームの一員で次期駐日大使候補のJ・ナイ元国防次官補らには、ブッシュ時代にアジア太平洋地域への関与と政策が希薄になったとの認識がある。同氏は90年代の再定義の推進者だった。
日本の外務省が主唱する再定義のテーマは、環境問題や貧困・感染症対策など地球規模の課題での協力強化が中心だ。ナイ氏は、軍事力の「ハードパワー」に政治力や文化的影響力など「ソフトパワー」を組み合わせた「スマートパワー」を提唱する。日本はオバマ政権とテーマを共有しうるに違いない。
しかし、再定義の具体論では安保・軍事面の協力強化が中心テーマになるのは必至だ。ナイ氏やR・アーミテージ元国務副長官らは過去の提言で、集団的自衛権行使を禁じる日本政府の憲法解釈の変更を求めた。
96年の日米安保共同宣言に結実し、97年の「日米防衛協力のための指針」改定で完結したかつての再定義と、これに基づき米軍への後方支援を可能とする周辺事態法などの整備、そして、米同時多発テロ後の「日本の貢献」は、自衛隊の活動地域・内容の拡大の歴史だった。同時に、戦闘地域と非戦闘地域を区分して後方支援の憲法論議をクリアし、米国の自衛権行使であるアフガン戦争への協力を「国際的なテロとの戦いへの参加」と説明して集団的自衛権行使の議論をくぐり抜けるものだった。
この流れの延長上にある次の再定義では、集団的自衛権が主要テーマにならざるを得ない。
問題は、日本の政治がこの議論に耐えうるかどうかだ。集団的自衛権行使について、自公政権は議論を棚上げしたままである。今年、確実に実施される総選挙では政権交代の可能性もある。そして、民主党の集団的自衛権への姿勢は明確でない。
90年代の再定義は日本では防衛、外務官僚が推進した。実際、ナイ氏とともに作業を進めたE・ボーゲル博士は95年1月、防衛庁幹部から「政治家抜きで、役人同士で話をしたい」と持ちかけられたと語っていた。
安保政策の基本にかかわる再定義は政治家が主導しなければならない。総選挙後に政権を担う政党はその力量が問われる。
毎日新聞 2009年1月14日 東京朝刊