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社説:「給付金」通過 国民を甘く見たごり押しだ

 暗たんたる状況である。定額給付金を盛り込んだ08年度第2次補正予算案と関連法案について与党は民主党などが退席する中で衆院本会議の採決に踏み切り、通過した。野党は強く反発、民主党は参院での審議に当面は応じない構えだ。

 給付金の効果や性格づけに疑問がふくらむ中の採決に国民の理解が得られるとは到底、思えない。撤回を主張した渡辺喜美・元行政改革担当相が自民党を離党、同党の松浪健太氏も採決で棄権したことがそれを物語っている。

 与党はこれ以上、国会運営のごり押しを進めてはならない。野党も参院で堂々と給付金の削除を求めるのが筋だ。雇用・生活不安が増す中、国会の混乱は早期に収拾すべきである。

 与党は給付金への国民の批判を甘くみていると言わざるを得ない。毎日新聞の世論調査(先月)でも7割の人が「評価しない」と答えている。麻生太郎首相が給付金を受け取るかすら態度を表明しない一方で、11閣僚が受け取りを、1閣僚が辞退を表明した。2兆円を投じる政策としてあまりにぶざまな不統一ぶりだ。首相が13日、給付金は経済対策の一部分だと強調したことも、逆に自信の無さを印象づけた。

 首相が補正予算案や09年度本予算案の早期成立を強調しながら、いっこうに野党へ歩み寄りを見せない態度も理解できない。給付金を断念すれば確かにメンツはつぶれようが、与野党の当面の最大の対決材料も消えるはずだ。

 民主党の小沢一郎代表が衆院解散を条件に本予算案などの成立に協力する「話し合い解散」に応じる姿勢を示しても、首相は「考えられない」と冷淡だ。「予算が成立し解散したら景気が良くなる話ではない」と語り追加経済対策にも含みを持たせる。だが、早期成立を最優先するなら、話し合いに応じるのが一番だ。結局、政権維持と衆院選の先送りしか眼中にないのではないか。そんな疑念すら浮かんでしまう。

 補正予算案の参院審議が難航した場合、与党は本予算案審議を見切り発車する可能性もあるという。給付金の関連法案が参院で否決された場合の衆院再可決も含め、強気一辺倒で乗り切れる状況には遠いはずだ。一方で、民主党も審議拒否戦術には慎重であるべきだ。「2兆円」を今、何に使うべきか。野党多数の参院で十分に審議し、与党に修正を迫るのが正攻法だ。

 そんな中で渡辺氏が離党したことは軽視できない。同調する動きが広がるかは未知数だが、松浪氏の造反も含め、与党にも政権運営への不満がたまっている現実は重い。

 渡辺氏はかねて麻生政権の政策を批判していただけに、衆院選の前に新たな旗を掲げることはむしろ、当然だ。政治の閉塞(へいそく)状況に活路を見いだそうとする試みは歓迎である。

毎日新聞 2009年1月14日 東京朝刊

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