政府が、二〇一〇―一四年度の防衛力整備の基本方針を示す新「防衛計画の大綱」策定に向け、有識者による「安全保障と防衛力に関する懇談会」の初会合を開いた。
防衛大綱は防衛力の整備、維持、運用などの指針であり、現大綱(〇五―〇九年度)が五年後の改定を明記していた。懇談会は六月ごろに報告書を作成、麻生太郎首相に提出する。これを受けて防衛省が新大綱と、新大綱に基づき部隊規模や経費などを明示する中期防衛力整備計画の基本的考え方をまとめる。新大綱と中期防は年末に閣議決定される予定だ。
大綱は日本の安全保障政策の根幹にかかわる重要な計画である。一九七六年に初めて策定され、必要最小限の兵力、装備とする基盤的防衛力構想を長く基本に据えてきた。同構想は専守防衛の理念を体現したものといえる。だが、大綱は米中枢同時テロを経た〇四年の改定で「多機能、弾力的な防衛力」を打ち出し、考え方を転換した。北朝鮮と中国に警戒感を示し、自衛隊の海外派遣も明記、防衛庁の省昇格の弾みともなった。
今回の改定では、中国の軍事力近代化など安全保障環境の変化を踏まえた陸海空自衛隊の配備の在り方、自衛隊の海外活動の本来任務化に対応した柔軟な部隊運用や教育の在り方などが議論の焦点になるという。
前回の改定で転換した路線の再転換は考えにくく、むしろ懇談会の議論を経て補強される方向であろう。しかし、中国は前回の改定時、強い不満を表明した。中国との不協和音が目立った小泉政権下だったこともあるが、今回一段の脅威論を示せば反発は必至だ。中国の軍事力近代化も事実とはいえ、摩擦は両国にとって得にならない。
自衛隊の海外活動もこのまま拡大の方向性が打ち出されるべき事柄ではない。自衛隊のイラク派遣やインド洋での給油活動をめぐって再三いわれてきた通り、日本の国際貢献活動はいかにあるべきかという根本の議論ができていない。新たな大綱が次の海外活動拡大の論拠となることが懸念される。
周辺国脅威論や海外活動は、冷戦終結で旧ソ連の侵攻に備えるという役目を終えた自衛隊にとって、新たな道筋という側面がある。だが、懇談会では平和国家としての戦後の歩みを踏まえ、客観的かつ慎重な議論を展開してもらいたい。国際貢献の在り方については政治が根本議論を怠ってきた。議論を促す報告書が出てもおかしくない。
パレスチナ自治区ガザをめぐる情勢が厳しさを増している。イスラエル軍とイスラム原理主義組織ハマスの戦闘による悲劇の拡大を食い止めたい。
イスラエル軍の大規模攻撃開始から二週間以上がたった。軍は空爆、地上侵攻に続き、都市部への侵攻を「第三段階」と位置づける。住宅密集地での作戦本格化で、さらに死傷者が増える事態が懸念される。
国連安全保障理事会の停戦決議は無視された。エジプトの仲介が焦点だが、イスラエルとハマスの主張の隔たりは大きい。イスラエルはエジプト境界の地下トンネルを通じたガザへの武器密輸の防止を最も重視する。一方のハマスは武器入手に制限が加わることを警戒し、イスラエルによるガザ封鎖の解除を強く要求している。
イスラエルの大規模攻撃はハマスによるロケット弾攻撃の阻止が目的とされるが、総選挙を間近に控えるオルメルト首相には世論の支持を取りつける思惑があろう。ハマスにも強気を貫くことで対立する穏健派ファタハの無力を示し、より優位に立つ狙いがあるようだ。
しかし、今回のイスラエルの攻撃は世界各地で抗議行動を呼び起こしている。国際的非難がなお高まることはイスラエル政府にとってもマイナスだろう。ハマスにしても、これまで勢力を伸ばしてきた背景には民衆の根強い支持があった。だが、子どもたちを含む犠牲者が増え続けるなら、遠からず民衆の心は離れていこう。
今のところ希望は引き続きエジプトの仲介と調停だ。とはいえ、エジプトとイスラエルの間には思惑や立場の違いがある。国際社会の働きかけが欠かせない。日本も特使を派遣した。イスラエルに強い影響力を持つ米国の役割は特に大きい。
(2009年1月13日掲載)