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社説

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定額給付金―民意が首相に届かない

 この週末、いくつもの報道機関が行った世論調査の結果は衝撃的だった。

 麻生内閣の支持率は、朝日新聞、産経新聞、共同通信の調査で軒並み2割を割り込んだ。逆に、不支持率は読売新聞、NHK、産経、共同の調査でそろって7割を超えた。67%の朝日を含め、国民の3分の2を上回る人々が首相にNOを突きつけたかたちだ。

 深刻なのは、首相の大看板である経済政策に対する厳しい見方だ。

 朝日の調査では、首相の景気対策に「期待しない」という人が70%に達した。読売の調査でも64%が政府の対策を「評価しない」と答えた。

 焦点の定額給付金では、朝日調査で71%が「景気対策として有効ではない」、63%が「支給をやめた方がよい」と答えた。読売調査でも「支給をやめて雇用や社会保障などに使うべきだ」という意見に賛成する人は78%にも達した。

 不景気が雇用や消費などに深刻な影響を広げるなかで、政府の評判が悪くなるのは仕方ない面はあろう。だが、そのために2兆円もの巨費を投入し、国民ひとりひとりに現金を配るというアイデアがこれほど不評なのは、政策の是非の問題を超えて、この政権そのものへの不信の表明と見るべきだ。

 そんななか政府与党は衆院で、第2次補正予算案と関連法案を野党の反対を押し切って可決した。

 民主党が反発するのは当然だ。小沢代表が「定額給付金を分離して採決すれば、その他のことには前向きに取り組む」と発言し、定額給付金をはずせば補正予算の成立に協力するとのボールを首相に投げていたからだ。

 首相が歩み寄れば、雇用対策や中小企業の資金繰り対策などは迅速に実行できるようになったはずだ。それでは敗北に等しいというのが首相の思いなのだろうが、世の中の厳しい空気を読み違っているのではないか。

 自民党内にも首相への批判がないわけではない。渡辺喜美元行革相がきのう離党に踏み切り、加藤紘一元幹事長は「定額給付金はあまり出来がよくない制度というのが7、8割の自民党議員の心だが、総選挙で公明党にお世話になるから賛成する」と述べている。

 加藤氏の言葉が事実なら、自民党は公明党・創価学会の支援欲しさに「出来のよくない」政策に甘んじるということなのか。何とも情けない政党になってしまったものではないか。

 このまま与野党がにらみ合っていては「60日ルール」での衆院再議決に頼る政治がまた繰り返されることになる。福田前政権のときの、インド洋での自衛隊の給油支援やガソリン税をめぐる混迷の再現である。

 国民の暮らしがますます厳しくなるなかで、そんな愚かな政治を続ける余裕がいまの日本にあるはずがない。

最高裁人事―密室から解き放つとき

 裁判員制度を柱の一つとする司法改革は、司法を国民に開かれたものにするためのものだ。その意味で、もう一つ、忘れてはならない改革がある。

 最高裁の15人の裁判官を選任する過程を、連綿と続いてきた密室人事から解き放つことだ。

 日本国憲法では、最高裁長官は内閣の指名に基づいて天皇が任命し、14人の最高裁判事については、内閣が任命することになっている。

 ところが、選考方法についての規定がないのだ。

 昨年11月、最高裁の第17代長官に竹崎博允氏が就任した。この選考経過も十分な説明はされていない。

 最高裁長官はこの30年、竹崎長官まで裁判官出身が9代続いている。身内の順送りと言われても仕方がない。それ以前には、裁判官、学者、弁護士、検察官と多彩な出身者が任に就いたが、それは遠い過去の話となった。

 密室での人事は長官に限ったことではない。最高裁判事の出身は、裁判官6人、弁護士4人、検察官と官僚各2人、法学者1人となっている。この枠は事実上固定されてきた。

 官僚を起用する場合は原則として内閣が候補者を絞ってきた。しかし法律家出身者の場合、現長官から提示された候補者を追認してきたのが実態だ。

 米国では、連邦最高裁裁判官は大統領が指名する。承認権は上院が持っており、候補者については公聴会で審査してきた。国民が選考過程で蚊帳の外に置かれている日本とは対照的だ。

 この問題について、司法制度改革審議会は01年に「最高裁裁判官に対する国民の信頼を高めるため、選任過程に透明性・客観性を持たせることを検討すべきだ」と指摘した。しかし、具体化を担った政府の司法制度改革推進本部では案としてまとまらなかった。

 司法を市民に身近なものにするため、裁判員制度や法科大学院、法テラスといった制度改革が次々と具体化した。しかし、司法の頂点に立つ最高裁の人事改革だけが、メニューからすっぽり抜け落ちたままなのだ。

 見識が高く、法律の素養のある40歳以上の者。最高裁判事の任命資格は、このように定められている。候補者は、もっと多彩な人材の中から国民の目に触れる方法で選考されるべきだ。

 戦後、最高裁が法律を違憲としたのは8件しかない。積極的に憲法判断を行っていく最高裁に変わっていくうえでもプラスに働くのではないか。

 内閣の下に法曹界や国会、学識経験者らで構成する任命諮問委員会を設け、そこで複数の候補者を選んで内閣に答申する、という改正案が過去に4度も国会に提出された。

 この改正案の再考を含め、司法改革が本格化する今年こそ、国会は検討に着手するべきだ。

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