【ソウル=稲田清英】日本から18人の財界人が同行した麻生首相の訪韓は、対韓国では初の本格的な「経済外交」と言える。米国発の金融・経済危機に直撃される中、11日には日韓の財界人が昼食会や両国首脳との懇談会で一堂に会し、経済協力に向けた対話拡大を強調した。だが貿易・投資拡大をめざす日韓経済連携協定(EPA)締結への展望は開けないままだ。
■首相、重要性を強調
麻生首相は昼食会でのあいさつで日韓EPAの重要性を強調した。「2国間の貿易・投資拡大に加え、日韓企業がアジアを含む第三国で協力する可能性も広がる。引き続き韓国政府とよく話し合う」
今回の財界幹部の同行は、日本政府が強く呼びかけて実現したという。ある政府関係者は「訪問団には日本経団連の張富士夫副会長が加わっている。この点を見れば、韓国側も日本側の意図を理解できるだろう」と語る。
韓国産業界には、日本とのEPA締結による自由化で国内産業が打撃を受けかねないとの懸念が根強い。その代表的な存在が自動車業界とされる。一方、トヨタ自動車会長の張氏は日本の自動車業界の代表だ。業界同士で意思疎通をはかり、交渉の再開へ障害を取り除きたい――そんな日本側の思いが込められている、というわけだ。
■韓国、根強い慎重論
韓国側も「両国は協力できる分野が多く、協力するほどに利益になる関係」(趙錫来・全国経済人連合会会長)との立場だ。しかし、韓国政府の通商交渉担当者は「交渉再開へ向けた努力を通じ、次の段階へ進めるか判断している最中だ」と慎重だ。
「判断」の前提が、日本の中小企業の韓国進出や技術支援など具体的な「協力」の取り付けだ。韓国経済はもともと部品・素材産業が弱く、対日貿易赤字は年々増え、08年も過去最高を更新した。こうした状況でEPAを締結しても、状況をさらに悪化させかねないとの考えがある。
ウォン急落に見舞われた韓国側には「日本企業にとっては(円高で円建てでの)人件費などが下がり、対韓投資の利点が増した」(政府関係者)と期待は高まる。しかし日本側にとって、韓国の中小企業への技術支援などは「敵に塩」ともなりかねない。
日本で開かれた昨年4月の首脳会談を受け、EPA交渉再開へ向けて実務者協議がその後2回開かれたが、進展はなかった。現在は「次回の日程も決まっていない」(日本側交渉関係者)状況という。