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社説:世界天文年 夜空見上げ科学の扉を開こう

 月は表面が滑らかな球ではなかった。1609年、初めて夜空に望遠鏡を向けたイタリアのガリレオ・ガリレイは、月に山や谷、クレーターを見つけて驚く。

 それからちょうど400年。国連やユネスコ、国際天文学連合は今年を「世界天文年」と定めた。「宇宙 解き明かすのはあなた」をスローガンに、さまざまなイベントを計画する。

 ガリレオが作ったような小型望遠鏡のキットを安く提供し、世界中の人に夜空をみてもらうのも主要企画のひとつだ。天文年の日本委員会は「君もガリレオ」プロジェクトと名付け、年間の観測プログラムを提供する。

 この不況の折に、天体観測どころではないという人もいるだろう。だが、宇宙を考えることは、地球を考え、そこに暮らす人間の暮らしに思いをはせることにつながる。

 子供たちにとっては、科学の楽しさを知るための貴重な扉でもある。望遠鏡の仕組みを知ることで、もの作りへの興味にめざめる子もいるかもしれない。他の科学分野への関心を広げるきっかけにもなる。

 科学に対するガリレオの姿勢には、今も学ぶところがある。手製の望遠鏡で惑星を観測し、当時は異端だった地動説を支持しただけではない。重さが違っても落下速度は同じであること、振り子の周期はひもの長さに依存することなど、実験と観察によって新しい発見をした。その時々の常識を疑い、自ら確かめることは科学の基本だ。

 天文は科学と文化の橋渡し役としても貴重な存在だ。天文年のアジア共同企画には、「アジアの星の神話・伝説」プロジェクトもある。七夕をはじめとする星や月、天の川などにまつわる伝説や民話、歌謡などを収集し、各国で同時出版するという。科学への興味だけでなく、アジア諸国のつながりを再確認するにもよさそうだ。

 都会では特に、星が見たくても空が明るすぎて見えないことに改めて気づくかもしれない。夜の地球を宇宙から見ると日本列島は明るく光っている。エネルギーを無駄遣いしていないか。そんなことも考えたい。

 最先端科学でも宇宙への興味はつきない。米国の科学論文誌「サイエンス」は、昨年の10大ニュースに「太陽系外惑星の直接観測」を選んだ。ガリレオの望遠鏡に始まった天体観測が、400年でここまで到達したかと思うと感慨深い。

 宇宙の成り立ちを探る宇宙論の分野も、今、興味深い時期にある。衛星などの観測から、宇宙の組成の96%が普通の物質とは違う「暗黒物質」や「暗黒エネルギー」であることが明らかになった。その正体をつかむことで、人類の宇宙観が変わるかもしれない。

 新たな科学への扉は、開かれるのを待っている。

毎日新聞 2009年1月13日 東京朝刊

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