きょうは「成人の日」である。各地で成人式が行われ、華やいだムードに包まれるだろう。大人の仲間入りをしたみなさんに「おめでとう」の言葉を心から贈りたい。
身近な分野で節目やけじめの行事が廃れていく中、成人の日の式典は重要な儀式として定着している。社会の期待の表れといえる。大人になった希望と自覚を胸に刻み、新たな一歩を踏み出してほしい。
新成人は百三十三万人と二年連続で過去最少を更新した。少子高齢化に伴って若者の数は減り続けているが、みなさんのエネルギーで日本を元気にしてもらいたい。
ただ、現在の状況は極めて厳しい。米国発の金融危機の影響で、世界同時不況といわれるほど景気は急速に冷え込んでいる。日本でも非正規労働者を中心に大量解雇が相次ぎ、社会の不安は募る。
先日、テレビを見ていて胸が痛くなるような場面に遭遇した。会社から採用内定を取り消されたばかりの学生が「未来が閉ざされた。未来が見えない」と声を振り絞ってインタビューに答えていた。
一生懸命、就職活動をして手に入れた採用内定の通知だっただろう。就職したら、こんな仕事の仕方をして、休日はこうして過ごそうと、あれこれ夢を描いていたに違いない。
こちらは何も手助けすることはできないが、絶望感に見舞われた学生の境遇に思いをはせる想像力だけは保ち続けたいと思う。その上で自分が生きている世界で、自分にできることがあれば、やりたいと思う。
みなさんにも、これから楽しいことばかりではなく、苦しい試練が待ち受けているかもしれない。もちろん自らの未来は自らの力で切り開くのが基本である。だが、ぜひ身の回りの出来事だけでなく、幅広い分野に関心を持って思いをはせる想像力を高めてもらいたい。
少し説教くさくなったが、自戒も含めて私たち先輩の大人にも求められる姿勢だろう。
想像力を基にして社会のありようを変えていくには、さまざまな方法がある。その一つが選挙である。今年は秋までに必ず衆院の解散・総選挙がある。
増大する年金などの社会保障費や財政赤字といった世代間負担のあり方が総選挙の重要な論点だ。派遣制度の見直しも問われている。一票の力は微力ではあるが、無力ではない。想像力を磨き、初めての国政参加の機会を生かしてもらいたい。
今国会でようやく審議が始まった総額二兆円の定額給付金問題が混迷の度を深めている。経済対策として政府が打ち出した二〇〇八年度第二次補正予算案の柱だが、麻生太郎首相の発言の「ぶれ」などが災いし迷走は長引きそうだ。
給付金をめぐる混迷の大きな要因は首相の発言にある。首相はこれまで高額所得者の受け取りを「さもしい」「人間の矜持(きょうじ)の問題」とまで言い切り、辞退するのが当然と表明していた。
ところが、今国会になって生活対策から景気刺激策に重点が移ったとして、高額所得者にも給付金の積極活用を呼び掛けるようになった。発言のぶれは明白だろう。
さらに首相自身の受け取りについては、態度を明確にしない「あいまい戦術」に徹している。閣僚の間では、受領するかどうかで「閣内不一致」も露呈した。政策を実行しようとする麻生政権がこのありさまでは、政策自体に説得力が欠ける。
衆院での審議を終えたとする与党は、十三日にも衆院本会議で採決することになった。給付金に反対する民主党などはたとえ衆院を通過しても、主導権を握る参院段階で二次補正案から給付金を切り離すよう、あらためて要求する方針だ。
与党が応じなければ審議拒否を検討しており、国会空転も予想される。国民の間で雇用や生活不安が拡大する中、こんなことでいいのか。二次補正案には中小企業の支援策や雇用対策なども含まれている。
給付金の所得制限は各市町村の判断に委ねられ、これも混乱を招く恐れがある。制度として不完全な感が否めない。与党のメンツはあろうが、ここは民主党などの要求通り給付金を切り離し、制度設計や支給の是非の議論を深めるべきである。
(2009年1月12日掲載)